正直者すぎてパーティーを追放されたが、伝説の斧を手に入れて英雄になった男の話

砂漠の使徒

正直者と斧は相性がいい

「お前は追放だ」


 そう告げられたのが、今朝。

 特に悪いことをした記憶はないんだが、追い出された。

 いったい何が悪かったんだろうか。

 先週のワイルドウルフ討伐で倒した数を二匹多くギルドに報告していたので、後で俺が訂正して報酬が減ったから?

 それとも、役所に提出する書類に職業を冒険者と記入しないで冒険者税を逃れようとしていたので訂正したからか?

 たしかにお金は大事だが、嘘はよくない。

 俺は天に誓って今まで悪い行いをしたことはないんでな。

 だが、これからどうしたものか。

 冒険者を一人でやっていくのは、結構辛い。

 かといって、パーティーを組むのはもうこりごりだ。

 それなら、なにか新しい仕事を見つけるか。

 今の俺にあるのは、長年連れ添った大きな斧一本。

 これを有効活用できる仕事といえば。


「いよっし!」


 俺は森に入り、何本か木を倒した。

 そう、これからは木こりとしてやっていこう。

 木は家や武器、家具を作るのに必要不可欠だ。

 案外報酬も出るんじゃないか?

 なーんて、夢を膨らませていると。


「おぁっ!!」


 目標の大木を見誤った。

 空振った斧は手をすっぽ抜けて側にある泉にドボンだ。


「やっちまった……」


 派手な音と水しぶきが上がった泉を覗き込む。

 激しく揺れる水面。

 水は澄んでいる。

 が、斧はどこにも見当たらない。

 どうする。

 潜って取りに行くか?

 俺は服を脱ぎ……。


「ん?」


 泉の中央が光っている。

 まるで水底になにかがいるみたいに。

 なんだ、魔物か?

 不幸なことに唯一の武器は水の中だ。

 俺は最悪の場合に備えて身構える。


「あなたが落としたのは、この金の斧ですか?」


 すーっと一切の音を立てずに水から出てきたのは、きれいな女性だった。

 どことなく、絵本に出てくる女神様に似ている。

 右手にはまぶしいくらいに輝く金の斧を掲げている。

 さらに、今度は左手を動かして銀色に光る斧を取り出した。


「それとも、銀の斧ですか?」


 彼女が誰で、なぜここにいて、その斧はなんなのかはわからない。

 だが、俺の望みはただ一つ。


「あー、生憎俺が落としたのはもっと薄汚くて、でっけぇ斧なんだ。知らないか?」


 あわよくば、彼女が知っているかもしれない。

 一縷の望みをかけて、尋ねる。

 しかし彼女は一瞬の沈黙の後、ゆっくりと泉の底に消えていった。

 どうやら知らなかったようだ。

 俺は泉に背を向けて、今日の収穫を担いで帰る準備をすることにした。

 さて、明日からは相棒なしでどうしたも……。


「あなたが落としたのはこの斧ですね」


 再び声がした。

 振り向くと、あの女神のような女性が俺の斧を両手で抱えている。


「あ、あぁ、そうだ! ありがとうよ、あんた!!」


 まさか帰ってくるとは思わなかった。

 俺は嬉々として相棒を受け取る。

 この見知らぬ彼女には感謝だな。


「正直者のあなたには、金の斧と銀の斧も授けましょう」


「え?」


 なぜか彼女は、さきほど見せた金と銀の斧も俺の目の前に置いた。


「こ、これは俺のじゃねぇぞ!」


「いいのです、あなたは正直者なのですから」


 女神は現れたときと同じように、音もなく泉に消えていった。


「まいったな……」


 この斧、どうしたもんか。


「……オマケで強力なスキルも渡しておきますね」


 泉からかすかな声がした。


―――――――――――――――――――――――――


「魔王様、近頃人間界で流行っている噂をご存じでしょうか?」


 ここは魔王城。

 人間を襲い、世界征服をもくろむ魔王の住む堅固な城だ。

 一番奥の部屋、松明だけが怪しく光る薄暗い部屋で玉座に堂々と腰かける人物と、そのそばに小柄な魔物が一人。


「もちろんだ。金と銀の斧を持っている冒険者だろう?」


「ええ、その通りでございます。噂では『三刃流』とか呼ばれているらしいです」


「ふっ」


 馬鹿にしたように鼻で笑う魔王。

 それもそうだ。

 彼にとって人間など、ゴミ同然。

 今まで勇者だと名乗る者を何人も屠ってきた。


「なんでも、一番ぼろそうに見える斧が大層強力だとか」


「聞くところによると、それは投げれば絶対に相手を倒せるらしいな。恐ろしいものだ」


 声色には恐ろしさなど微塵も感じられない。

 やはり魔王は人間など恐れていないのだ。


「ほっほっほ。そうですな。しかし、我が魔王軍は……」


 側近の言葉が止まった。

 真横を斧が高速で通り過ぎていったからだ。


「ぐはっ!!!」


「魔王様!?」


 苦しそうに顔を歪め、血反吐を吐く魔王。


「そいつが魔王か。ここまで来るのに苦労したぜ」


「お、お前は!」


 暗い部屋に入ってきた、光る二つの刃を背負う男。

 一番大事な一つは、魔王の体に深々と刺さっている。


 彼こそが。

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