第37話

* 岡引探偵事務所


 それで、覆面のまま被害者全員を集め、自分達は総見さんの関係のものだと言って、事情を全部説明したんです。そして御免なさいと謝ったんです。

 そしたら、田鹿浦の兄妹が私たちや他の人に、ごめんなさい、親がとんでも無いことをしてきた。ごめんなさいって謝るんです。私、泣いちゃった。

 それに三人の女性も私達に親が迷惑かけました。ごめんなさいって謝ってくれて、お互いに頭の下げ合いでした。考えたら、わたしの親だけなんです、ヒントに上げられた方に悪事を仕向けてないの。

 そして次の日みんなにバッグ持たせて、途中で車から降りないように頼んで返したんです。

家は数時間後に燃えるように工夫して火を付けました。火災保険には入っていました。

 それから、総見幸子さんの死を聞かされたんです。復讐が終わるのを待ってでもいたかのようでした」

「わかった。今の話してくれた内容は動画にもとってあるから、それを持って予定通りに自首して下さい」

「えっ、どうして自首すると思ったの?」

「あなた方を見たら、誰でもそう感じますよ。ただ、俺は今の話で、一人抜けていると感じています。が、それは言いません。麗衣さんも敢えて言わなかったと思うからです。

警部!山陽さんは自首で良いですよね。逮捕状も出てないし?」

「え〜、良いわよお、一心付き添うのか?」

「いやあ、家族三人。お邪魔虫になりたくない」

「ふふふ、山陽さん車は?」

「近くの駐車場に有ります」

「そう、私は、良く殺人をしないでくれたと思います。沢山の罪に問われると思いますが、出所したら、弟と妹と名乗り合って、そしてアメリカの総見幸子さんのお墓にお参りでも行って下さい。じゃ、先に帰るわ。一心」


 数日後、田鹿浦兄妹と宝蔵の妻朝子は被害者とヒントに挙げられた五組に夫々お詫びとお見舞いを兼ねて挨拶して些少ですがといって慰謝料を渡して歩いたと報道されていた。そして三人で海外で暮らすという。

 一方、宝蔵は銀野供子への殺人教唆の疑いで取り調べを受けたが、死亡した都地川と宝蔵の告白だけでは送検は無理だとして解放された。

 その時までに、家族は海外へ旅立っていた。

 それから間も無く、報道陣は宝蔵の行方を掴めなくなってしまった。地位も、名誉も、信用も、家族も失った宝蔵の、その後を気にかけるものは、1人もいなくなった。


 それから数ヶ月が過ぎ、山陽家の三人を加害者とする誘拐等の事件の裁判が始まった。被害者が刑を軽くするために嘆願書を裁判所へ提出したと報じられた。

 それから数週間後、岡引探偵事務所に若い女性が訪ねてきた。

「ごめんください」神妙な声に物腰だった。

一心は内心、来たかと思ったが「はい、どちら様ですか?ご用件は?」と尋ね、座らせてから話をさせる。

「私、大雨瑠衣(おおあま・るい)といいます。」

「大雨瑠衣さんですね、どういう相談ですか?」

「いえ、相談ではなく自首したいと思って・・・」

「はっ、ここは警察では無いですよ」

話を聞きつけ静も美紗も全員部屋から出てくる。

「分かっています。麗衣に聞いて来たんです。ここで相談したらいいって」

「そうですか、で、どうして自首を?」

「私、誘拐された人と一緒に下田の家にほとんどいて、・・で、逃げようって話が出た時に、私が怖い、殺されたらどうするの?一人連れていかれてるのに、見捨てるの?とか言って、引き止めてたんです」

「でも、おたく誘拐された訳でも無いのに?」

「私の両親は、私が子供の時に亡くなっていて、山陽壮子さんに育てられたんです。麗衣ちゃんとは従姉妹なんです。高校出るまで一緒に暮らしていて、就職する時に一人暮らしを始めたんです。

で、似てるんです。私と麗衣ちゃん。だから、誘拐された女性が下田に連れてこられた時、部屋にいたのは私なんです。小指を折り曲げて手袋穿いて、同じ眼鏡かけて、同じ髪型で、そしたら誰も気付きませんでした」

「まあ、誰もそこに偽者いるなんて考えもしないからなあ」

「だから、私も犯人なんです」

「困ったなあ。皆」

そう言うと、静も、美紗も、数馬も、一助も皆奥の部屋へ引っ込んでしまった。

「なんだよー白状だなあ・・」

一心はちょっと考えて「ちょっと待って、丘頭警部呼ぶから」そう言って立ち上がる。

「警部?」

「あっ、大丈夫!友達みたいなもんだから」

そう答えて事務所の電話をとる。

「おー警部、ちょっと困った問題起きて、すぐ来てくれないか?・・・いや、事件?じゃないこともない・・・おー頼むじゃ」

「10分待ってね。来るから」

静がお茶を淹れてきた。

「おい、静!困ったぞ」

「へいへい、聞きやしたがな。せやかて、証明できるんどすか?本人の言葉だけやのうて、物的ちゅうもんがおますのかいな?」

「いやー、無い」

「ほな、決まりやないですかぁ」

「そうだよなあ。俺もそう思う」

「それで、麗衣さんはなんて言ったの?」と一心が訊くと「あんたは関係ない。アルバイトをしただけ、犯罪の片棒を担いだって知ったのは後になってからって」と思った通りの答えだ。


 そうこうしているうちに警部が来た。

「おー一心!どうした?そちらのお嬢さんの問題か?」そう言ってペコリと頭を下げる。

「あのな、こちら大雨瑠衣さんと言って、下田の家に麗衣さんの身代わりでずっといて、皆が逃げ出そうとした時の止める役だって言うんだわ」

「誰もそんな人いたなんて言ってないわよ」

「そっくりなんだって、従姉妹だから、ちょっと変装したら見分けがつかない。それで、俺も納得よ。犯行を繰り返しながら、どうして被害者が誰も麗衣さんが時々いなくなるって言わないのか。そして、最後に被害者全員集めて説明したっていうけど、麗衣はどうしたんだ?それが、最後の疑問だったのさ」

「あんたの疑問はどうでも良いんだ。このお嬢さんの言うことが本当かどうかなんだ」

「はい、本当です。私嘘なんかいいません」

「あのさ、悪いことした奴らも皆自分は嘘つかないって、嘘つくのさ。だから、証拠というものが必要なんだわ」

「そうよ。一心の言う通り。根拠を示せないで、物は言わないのよ。お家にお帰りなさい。そして、麗衣さんが帰ってきたら、優しく迎えること。それがあなたの役割だね。どう、一心!それで良いしょ!」

「おう、完璧だ。なあ静」

「へい、桃子はんたまにはええこと言いますなあ、ふふふ」

「静!たまには、は余計だ!もう」

「ふふふ、おかしい」瑠衣ちゃんが笑う。

丘頭警部が「じゃ、帰るから」と言ってさっさと帰ってしまう。

「ほら、瑠衣ちゃん、警部に見捨てられた。だから、さっき言った通り帰りを待つことにしよう!ね!」

「・・・良いんでしょうか?」瑠衣ちゃんはそう言って口を尖らせている。

「俺が、岡引一心が良いって言ったら良いんだ」そう言って笑うと、瑠衣ちゃんも笑った。

 一心はやっとすべてに納得がいってスッキリ爽やかな気分になった。


        終わり

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奴に烙印を!怨情の誘拐殺人事件 闇の烏龍茶 @sino19530509

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