第2話 47センチのナゾを解け!

「このヘンテコリンなY字の棒は『パチンコ』っていうんだ。お父さんと遊んだことがある。でもこれテーブルからはずれないな」

 涼太はパチンコを手に取ろうとしたが、テーブルにがっちり固定されていて動かない。さらに力をこめて、もぎ取ろうとする涼太の手を愛之助がつかんだ。


「それ動かしちゃダメだと思う。この紙に書いてある『彗星で47センチから撃て』って、その位置から撃てってことだろ。ほらテーブルの上に彗星の絵が描いた紙箱もあるし」、愛之助が紙箱を取ってフタを開けた。「ほーら、やっぱり」と、いいながら皆に見せた箱には銀色のパチンコ玉が5,6個入っていた。


「OK、パチンコをこの位置から撃てってわけだな」

 涼太は銀色の玉を一つ手に取り、パチンコにセットした。ゴムの中央にあって玉を保持する部分は丈夫なホンモノの皮でできているようだ。


「47センチってのが、この赤いマークだね。サバの大きさがだいたい50センチだから間違いないよ」と、アラシ。

 食材のサイズで長さを語るなんて、食いしん坊のアラシらしいわねと京香は思った。アラシの将来の夢はコックさんなのだそうだ。


「で、何を撃てばいいんだっけ?」

 涼太がパチンコのゴムを47センチの位置まで引っ張りながらいった。

「リストのラ・カンパネラを」愛之助が紙の文字を読み上げる。

「それがわかんねぇよ」涼太が眉根を寄せた。

「そうだ思い出した! カンパネラって鐘のことよ」、ナナが顔を輝かせた。「ほら見て、リストの像が小さな鐘をぶら下げてる!」


 ナナがいうとおりリストの銅像は高く掲げた右手に小さな釣り鐘をぶら下げていた。それまで左手の手紙に注意がいっていたため、京香たちは右手の鐘に気が回っていなかったのだ。


「ターゲットはあの鐘だな、まかせろ!」

 涼太がパチンコのゴムを47センチの位置まで引きしぼり、狙いを定めてリストの鐘を撃った。


カン・カン・キーン!


 リストの鐘に当たったパチンコ玉は、弾かれてショパンに当たり、続いてベートーベンに当たって金属的な涼しい音を響かせた。


 何が起こるのだろうか、五人は体を固くしてじっと待った。こういう状態を『固唾を飲む』っていうのよねぇ、と京香は思う。


「何も起こらないね」

 愛之助ががっかりした様子でいう。

「命令どおりに撃ちましたけどぉ! 呼び鈴はどこですかぁ!」

 涼太が屋敷の方に向かってヤケクソな大声を上げる。


 京香は今のできごとを順番に思い返してみた。なにか重要なヒントが隠されているような気がしたのだ。

――パチンコで像をねらって撃ったら、次々と像に当たった。

 それは見たとおり。でも、その後に何かが起こったような気がする。京香はもう一度考えた。

――像を撃ったら連続的に音がした。カン・カン・キーンって。3つの音が呼び鈴のありかを示しているとしたら……。

 京香は謎の正体がだんだんと見えてきたような気がした。


「ヒントがカン・カン・キーンかどうか確かめたいな。ねえ涼太クン、もう一度パチンコで撃ってみてくれない?」

 京香は涼太に両手を合わせた。

「OK、何度でもやったるぜぃ!」

 涼太がテーブルの47センチの位置を確かめながら、ふたたびパチンコを撃った。


カン・カン・キーン!


 彗星のパチンコ玉は次々と像に当たった。先ほどと同じ現象だ。


 間違いない、これだ。京香はワクワクしてきた。

「わかったかも。今後は47センチより短い位置からパチンコを撃ってみて」

「ぜんぜんわかんねぇけど、30センチでいいか?」

「涼太、30センチはサンマのサイズだから、このヘンだね」

 アラシが正確な位置を指定する。

「ここだな、当たれー!」


カン・カン。


 30センチから放たれたパチンコ玉は、リストの鐘に当たって、ショパンに当たり地面に落ちた。47センチよりパチンコ玉の勢いがたりないのだ。つまり、この謎の出題者はカン・カン・キーンを聞いてほしかったということである。


「やった! これでカン・カン・キーンが重要なヒントだって確定。そして、わたしたちがどうすればいいかも、わかった」

 京香は音のヒントから、呼び鈴の隠し場所にも見当がついていた。

「どうしてわかるのさ?」

 愛之助がまったく納得いかないという顔をする。


「わたしもわかった!」

 ナナが両手を顔の横で組み、つやつやのツインテールを嬉しそうに揺らした。

「なんだよ、女子ばかりズルいぞ」

 涼太がむくれる。

「違うのよ、わたしがわかったのは京香ちゃんだけがわかった理由がわかったってこと」

「こんがらがっているから、簡単に説明して」

 愛之助がサジを投げた。


「それじゃ説明するね。テーブルの上にたて笛があるでしょ」ナナはテーブルのリコーダーを指さした。「つまり、音程に注目してほしいという出題者からのメッセージよ。たて笛を使わずに京香ちゃんがわかっちゃったのは、京香ちゃんが絶対音感の持ち主だから。そうでしょ?」


 京香は答える代わりにリコーダーを手に取り、3つの音を鳴らした。

ポ・ポ・ピー。


「ほら、銅像の音と同じ音程!」、ピアニストのナナは耳がいい。

「わかんねぇ」、涼太が空をあおぐ。

「つまり?」、愛之助が謎ときの先をうながす。


「笛でシ・シ・ドーって吹いたの。つまり獅子堂でしょ? 庭をとおったときにあったじゃない」、京香が説明する。

「あれか! ライオンの四角い」

 涼太が目を見開いた。

「いや六角だったな、獅子堂ってあの白い六角堂のことか」

 愛之助が訂正する。

「愛之助はおじいちゃんの家なんだから、昔から知ってるだろ、気がつけよ」

 アラシが口をとがらせた。

「それが、前に遊びに来たときと違って庭が造り替えられているんだよ。たぶんイタズラ好きの爺ちゃんのことだから、こうやってお客さんにクイズを出して困らせているんだと思うよ」、愛之助が頭をかいた。「さあ呼び鈴を押しにいこうじゃないか、獅子堂へ!」


 五人が庭の中央にある獅子堂へやってくると、中には呼び鈴とともに、こんなメモが置かれていた。


 みなさん、パズルを楽しんでいただけましたか?

 壁際の冷凍庫にアイスを冷やしておきましたので、

 どうぞ涼んでから屋敷へお越しください。


 京香たち五人は、美味しいアイスをありがたく味わった。

 日光が照りつける庭は、実に暑かったから。

 田舎での楽しい夏休みがはじまる予感に、京香はワクワクした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

音響探偵 音のナゾが解けるかな? 柴田 恭太朗 @sofia_2020

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ