空の女の子と海が嫌いな女子高生
楠 楓
海が嫌いな女の子と空から降ってきた女の子。
私は、昔から海が嫌いだった。
理由はなんてことないことで、昔海で溺れたからだ。
それから私は海に行くことは無くなった。
「いってきまーす。」
高校生になった今でも、私は海が嫌いだ。
しかし、生活には何ら影響なく、平穏に生活している。
今日もいつものように授業を受け、友達と話し、ご飯を食べて、家に帰る。
そんな日常に私は溶け込んでいた。
「今日も疲れたなぁ〜」
今日も"そんな日常"が過ぎていった。
「はぁ……。」
これからも"そんな日常"が過ぎて行くと思っていた。
この時までは……
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
「え?」
空から声がしたと思い上を向くと、すごい勢いで何かが落ちてきた。
そして、空に大きな影が見えた。とても大きな影だった。
「すっご……。」
私は、この三秒間に起こったことを整理するためにしばらく固まったあと、さっき落ちてきたものを確認した。
「……人?」
地面にうつ伏せ状態でへばりついていたのは、人型の何かだった。
……いや、見た目は完全に人だけど、空から落ちてきたし、髪の毛水色だし、なんか色々怪しい。
「……生きてるのかな……。」
私はその辺に落ちていた枝でとりあえずつついてみた。
どうやら、生きてはいるらしい。
私はとりあえず写真を撮ってから家に帰ろうとしたが、このまま死んでしまったら寝覚が悪いので、起こしてみることにした。
「あの……大丈夫ですか?」
とりあえず、体を揺すってみた。
「ふにゅ……」
その生き物は、間抜けな声を出しながら起き上がってきた。
その時、空のような綺麗な青色をした髪が靡いた。
「えっと……あの……」
その生き物は、ポカンとした顔をしながらこちらを見ていた。
私も、その瞳に吸い込まれるようにじっと見つめていた。
「あなたは?」
その生き物は首を傾げながら聞いてきた。
「えっと……私はりんだよ。」
「りん?」
「うん。」
「私はケイ! よろしくね! りん!」
空のような青色の髪に、透き通った目を持ったその生き物はケイと言うらしい。
「よろしく……。」
というか、ケイはこれからどうするんだろう……。
どこか行く先があるのかな。
「ねぇりん! 私、ハンバーガーが食べたい!」
ケイは唐突にハンバーガーが食べたいと言い出した。
私もどうせ暇だったので一緒に食べに行くことにした。
「いいよ。行こっか。」
私たちはハンバーガーショップに向けて歩き出した。
ケイはルンルンと楽しそうに歩いていた。
「ケイは、ハンバーガー食べたことないの?」
「うん! ないよ!」
……驚いた。ハンバーガーを食べたことない人がこの世にいるなんて。
今時JKの私からすればあり得ないことだ。
「ねぇりん。りんは、海って好き?」
ケイがまたも唐突に聞いてきた。
ハンバーガーの話題からどうしてこうなったのか。
「……ケイは好きなの?」
「うん! 大好きだよ! だって、広いし綺麗だし、たーっくさんの生き物がいるし!」
そう言った彼女はハンバーガーを食べに行くと決まった時よりもキラキラとした表情をしていた。
それを見た後だと、とても海が嫌いだなんて言えなかった。
「そう……だね。うん、私も好きだよ。」
その時、私はふと思い出した。
私が溺れた時、誰が助けてくれたんだろう……。
溺れて気を失った時、気がついたら浜辺でみんなに囲まれていた。
「りん? どうしたの?」
「ううん、何でもない。それよりもほら、着いたよ。」
ハンバーガーショップに着いた私たちは、お店に入って席に着いた後、ハンバーガーを注文した。
「すごい! これがハンバーガー!」
彼女はお金を持っていなかったようなので奢ってあげた。
でも、普通のハンバーガーを美味しそうに食べるケイを見ていると、自分が食べているものまでめちゃくちゃ美味しく感じるので別にいいかな。
「ハンバーガー、美味しいね!」
ケイはこんな美味しい食べ物食べたことない。ってほどに美味しそうに頬張っていたが、私にはどーしても気になることがある。
「ねぇ、ケイはどこからきたの? 空から落ちてきたけど……。」
「私? 私は空から来たんだよ?」
……どうやら、ケイは空から来たらしい……。
「ケイはどうして地上に来たの?」
もちろん、空から来たなんてことを信じているわけではない。
でも、もし本当にケイが空から来たとするならば、私の"そんな日常"に何か変化があると思ったからだ。
「お母さんの背中から落っこちちゃったんだ!」
……なるほど、それで落ちて来たんだね……。
「じゃあ、なんでハンバーガーが食べたいって?」
どうして彼女は最初にハンバーガーが食べたいなんて言ったんだろう……。
「昔、私がまだ海にいた時に聞いたんだ。」
海にいた時……ってどういうこと?
私は、ケイと話せば話すほど、頭の処理が追いつかなくなっていったが、海にいた時のことを楽しそうに話すケイを見るのは私も楽しかった。
「ケイは、どうして空に行ったの?」
「ん〜……。気がついたらお母さんの背中に乗って、お空を飛んでたよ。」
ケイは人差し指を顎に当てて、遠い昔のことを思い出すようだった。
私は、ケイの話を聞いているうちにそれが嘘だとは思えなくなっていった。
「ねぇケイ、今日はうちに来る? ケイの話し、もっと聞きたくなっちゃった。」
私の提案にケイは、目を見開いて大きく頷いた。
「うん! 私ももっとりんと話したい!」
それから私たちはお店を出て、帰路に着いた。
「……ねぇケイ。私、一つ嘘をついたんだ。」
「うん、知ってるよ。りん、本当は海、好きじゃないでしょ?」
……驚いた。気づいてたんだ……。
「私、ずっと前からりんを知ってたもん。」
ケイは初めて真剣な顔をして話した。
「私は知ってるの。りんが海で溺れたことも、それが原因で海が嫌いになったことも。」
ケイは立ち止まって私の方を向いた。
その透き通った目が私を写している。
「私はね、鯨だったんだ。りんが海で溺れている時、私はりんを助けたいって願ったら今の姿になれたんだ。だから、りんを助けることができたんだよ。」
ケイは、淡々と話し出した。
私は、またも理解が追いつかずに固まっていた。
ケイが……私を救ってくれた……鯨?
「それとねりん。私も一つ、嘘をついたんだ。」
「……どんなの?」
「どうして空に行ったの? って聞いたよね。」
ケイの真剣な顔はどんどんと暗くなっていった。
「私はね、実は死んじゃってるんだ。」
「……え?」
ケイから告げられた言葉は、まだ16年しか生きていない高校生には残酷すぎる言葉だった。
「多分、もうすぐお母さんが向けにくるからお別れだね、りん。」
「待ってよケイ。どういうこと?」
『死んじゃってる。』その一言が私の思考を完全に停止させた。
「ねぇりん。海と空って似てるよね。りんはどっちが好き?」
ケイは空を見上げながら私に問いただした。
その頃空は夕暮れ色に輝いていたからか、ケイの髪色はより一層美しく見えた。
「空……かな。」
「やっぱり? 私は海の方が好きかな。だって、空は静かだもん。」
ケイにとって、賑やかなのは大事なんだそうだ。
私も、どちらかといえば賑やかな方が好きだけど。
「空も海も変わらない。変わっているのは、生き物がいるかどうか。」
ケイは私の方を向いて話した。
「りん、一人じゃ生きられないのは、人間も動物もおんなじなんだ。怖さから逃げてるだけじゃ、一人のままだよ?」
「……ケイ、私は、」
その時、空に大きな影がかかった。
ケイが降ってきた時に見えたのと同じ影だ。
「そろそろお別れだね、りん。最後にりんに会えてよかったよ。」
ケイはその瞳から大粒の涙をこぼした。
「りん、Only the mind can conquer fear.だよ?」
「ケイ! 私、頑張ってみるよ! 私も、一人は寂しいから!」
それから、突然強風が吹いた。
目を開けると、そこにケイはいない。
ケイは、私が見た幻覚だったのか、それとも、本当にケイは存在していて私に会いにきてくれたのか、私にはわからない。
でも、私は一人じゃない。
「Only the mind can conquer fear.……恐怖に勝てるのは心だけ……か。」
ケイ、私今度、友達と海に行ってみるよ。
今度はもう大丈夫だよ。
私はもう、一人じゃないから。
空を見上げると、日が沈みかけていた。
その色は、ケイの瞳の色そっくりだった。
空の女の子と海が嫌いな女子高生 楠 楓 @kadoka0929
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