第3話
ダンジョンを出ても俺はずっとにやけていた。冷静に考えればダンジョンが崩落するかもしれなかったし、だいぶ危険な賭けだった。でも気を引き締めようなんて思えなかった。嬉しくてしょうがなかった。
そうだ、奏! ラインを確認すると、市役所に登録に行くね、とメッセージ。送信時刻は2分前。
軽く深呼吸をして俺は走り出す。レベル20にも満たなかった昔の俺ですらバスよりは速かった。今ならもっと速いはずだ。
風が耳元を通り過ぎるのを感じる。何度もつんのめりそうになりながら市役所に急ぐ。何やら喧騒が聞こえる。人ごみを押し退けて真ん中へ、人々の視線の先へと急ぐ。
奏はそこにいた。奏と俺を遮るのはあの時のクランか? そんなこと関係ないとばかりに震える足を前に進める。
「かなーー」
呼びかけようとして声が途切れる。どうやって奏に俺と来てもらえるかなんて考えもしなかった。奏が誘いに乗ったのはステータスが強いからなんて理由じゃなかったはずだ。
奏は俺に気づいてこちらをチラリと向いて、申し訳なさそうに視線を話しているどこかのクランの人に戻す。
これで終わりか? また奏は死ぬのか?
「奏、俺と来い! クランなんか行くな! 一緒に冒険しようぜ」
勝手に口から出た、あの日言えなかった言葉が。奏は今度こそ俺の方を向いて、俺の瞳をじっと見つめてる。
言ってから後悔が押し寄せる。俺は何言ってんだ。こんな言葉で引き止められるはずないだろ。もっといい方法はなかったのか。
でも視線だけは外さない。それ以外にできることはなかった。
奏の目から一粒涙が溢れる。時間が一瞬止まる気がした。奏はクラン勧誘の横を抜けて俺の方に駆け寄ってくる。
「うん! もうどこにも行かないよ」
何が起こったか一瞬わからなかった。気づけば俺は奏に抱きしめられていた。俺は奏の背中に手を回す。なんだか無性に叫びたい気分だった。
勧誘の人は引き止めてはこなかった。俺たちは無言で微笑みあってその場をあとにした。
帰り道でポツリと奏が呟く。
「和人くんと一緒に冒険できるくらい強くなりたかったの。だから私はクランに入ろうと思ってたんだ」
全く知らなかった。クランに入ろうとしたのも俺のことを想っての行動だったんだと思うと無性に照れくさかった。
「俺はそんな立派な人間じゃないよ」
「そんなことないよ、和人くんは立派な人間だよ……少なくとも私が1番……」
奏が言いよどんで頬を赤く染める。なんか照れくさくなって、そこでちょうど帰り道が分かれるところだったのもあって、俺たちは一旦別れた。
夜ご飯を食べて布団の中で考える。もうこれが夢じゃないことはわかってる。あまりにもリアルすぎるし長すぎる。
できれば明日も覚めないで欲しいけど1番やりたかったことはやれた、そんな満足感があった。
やり直しても俺はダンジョンに潜る @tukimidokuka
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