第2話

 バスの中で探索者カードを出して、一応ステータスを確認する。


黒谷和人

level 1

sp 0

hp 10

mp 15

speed 13

power 8

defence 7


skill 身体強化小


 ……思ったよりやばかった。パワーの8はまあいいとしよう。

 問題は防御力の7だ。ゴブリンに殴られたら吹き飛ぶレベル。まさに紙装甲。一撃も貰わないで倒し続けるなんてゲームの世界じゃないんだから無理ゲーだ。

 俺があれこれ考えているうちにバスは虚木ダンジョン前についた。






 虚木ダンジョンには警備の自衛官さん以外誰もいなかった。確か、攻略済みでモンスターがやたら強いってことで不人気ダンジョンだったはずだ。俺は今更ながら思い出す。

 待てよ人がいないってことは……


「すいません、ここに今日入った人は居ましたか?」


 警備のずいぶん疲れた感じの自衛官さんに聞いてみる。少しじろっとこちらを眺めて答えてくれた。


「いや、誰も来てないぞ」


 俺は探索者カードを自衛官さんに見せてダンジョンに入った。ついでに地図も買っていく。4500円もした。






 ダンジョンに入ってしばらく歩くと、モンスターを見つけた。うん、オークかぁ、行ける。向こうもこっちに気づいて走り寄ってくる。

 俺はそのまま逃げる……フリをしてオークの真正面に突っ込む。

 オークの大きな斧が俺に向かって振られる瞬間、斜めの方向にジャンプしてオークの脇をくぐり抜ける。オークは即座に俺の方を向いて追いかけてくる。

 そのまま俺は走って逃げる。オークはスピードが遅いので今の俺でも追いつかれはしない……はずだ。






「うぁあああああああぁぁあぁあ」


 俺の絶叫が尾を引いてダンジョンに反響し、俺の後ろにさらなるモンスターを引き寄せる。でもしょうがないだろ、後ろ5メートルでは斧を抱えたオーク×100以上。その後ろには絶対もっといる。4層まではなんとか来れた。あとは5層だけ。

 4層の階段を駆け上がりながら俺は絶望的なこと思い出す。


 ……隠し部屋ってどこにあるんだ? 


 振り返ればモンスターの大群、俺は走るスピードを上げる。確か隠し部屋を見つけた人の記事には、壁を蹴ったら壁からドアが出てきたって書いてあった気がする。壁を蹴る場所? 何も目ぼしい収穫がなくて帰る時とか?

 俺は三角跳びの要領で入り口近くの壁を蹴る。扉が現れるはずもなく、後ろのオークとの距離が少し詰まる。

 どこかにある隠し部屋なんて見つかるはずもないが俺は必死に走る。時々壁を蹴る。正面にオークの影が見える。足に力を込めて相手の攻撃に備える。しかし斧の影が見えない。もう少し近づくと全貌が見えてくる。武器を持っていなくて体の色が赤い、変異種だ。

 身構えたがあっけなくオークの拳が腹に突き刺さり俺は壁に激突する。変異種は仕留めたと思ったのかゆっくりと近づいてくる。後ろにはオークの大群、見回しても逃げ場なんて……あった!

 さっきの衝撃で足を引き摺りながら俺がぶつかったあたりにあった小さいドアに飛び込む。後ろで響き渡る怒号。ドアが小さいからかオークはここに入れないらしい。でもなんで? 答えは目の前にあった。部屋の隅に鎮座する宝箱。ここが、あの隠し部屋だ。

 宝箱をこじ開ける。罠があるかもなんて考えもしなかった。中にはネットの画像で見慣れた巻物が3つ。出るスキルはわかってる。隠し部屋を見つけただけの幸運な人を一躍有名人にしたスキル。

 スキルロールを破れかねない勢いで開けて3つとも使う。これで俺はあのスキル、爆撃を手に入れたはずだ。使い道なんてひとつしかないだろ、俺は入ってきた扉の方を向いて叫ぶ。どのみち失敗したら死ぬだけだ。


「爆撃!」


 直後、凄まじい勢いで地面が揺れて俺は無様にひっくりこける。成功? その答えは凄まじい光を放つ俺の体でわかった。これはレベルアップの光だ。5層分の魔物をほぼ全部倒したことによる急激なレベルアップ。もしかしたら現実の俺のレベルすら超えてるかもしれない。探索者カードを覗き込む。


黒谷和人

level 25

sp 300

hp 1040

mp 3098

speed 320

power 270

defence 240


skill 身体強化小 爆撃 閃光 経験値増加小


「は?」


 思わず声が出た。こんなステータスならトップクランにも入れるかもしれない。しばらく俺は狂ったように笑っていた。


 






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