【お役立ち度4】小説家になって億を稼ごう

おもしろさ2

読みやすさ2

お役立ち度4

いとおしさ4

おすすめ度4


松岡 圭祐著 新潮新書



●特徴

 何だこの香ばしいタイトルは、これは期待できるぞと思って読み始めました。不安要素としては、著者が松岡圭祐先生という、本をあまり読まない私でも知っているくらいの著名人だったことです。いとおしげな指南書だと思わせておいて、実はちゃんとした本だった、というオチにもなりかねません。


 本書を読むうえで必要な素質ががいくつかあります。まずはちょっとした国語力。そして、一般的な小説指南本を読んだ経験。最後に、長めの小説を1本書き上げた経験です。


 まず、文体が少し難しいです。導入部分は特に、大学入試の国語レベルくらいはあるので読みにくいかもしれません。導入部分さえ読みぬけばあとは比較的読みやすいので、序盤はおおまかな理解で読み進めてしまってかまいません。


 本書は、「小説とは何か」→「小説の書き方」→「小説家になる方法」→「小説家になった後やるべきこと」の順に話が進んでいきます。

 ただし、前者2つはかなりはしょられている部分が多いので、はじめての指南書を求める方には物足りないかもしれません。おそらく、一般的な小説の書き方の指南書ですでに知識を得ている人を読者に想定しているものと思われます。


 入門的な指南書の雰囲気をつかんでおきたい人におすすめなのが、フィルムアート社様の指南書です。そう、カクヨムの「創作論」ジャンルのトップに出てくるあのフィルムアート社様です。ぜひご一読を。


「きちんと学びたい人のための小説の書き方講座」

https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270

「フィルムアート社の本【ためし読み】」

https://kakuyomu.jp/works/16816410413898889590




●いい点

 まず、本書はアマチュア中級者からデビュー新人まで、幅広いターゲットに向けて書かれています。たいていの指南書は、「初心者向け」「プロットを書きたい人向け」のようにターゲットが絞られているため、全体像がつかみにくいというデメリットがあります。その点、本書はデビューとその後の流れまでを具体的にイメージできるため、プロを狙う人にとっては必読でしょう。


 次に、なんといっても圧倒的な現場感。小説投稿サイトの住人から、編集社のデスクで編集者と打ち合わせをするプロ作家、文学賞を受賞した大物作家に至るまで、自分がその現場に居合わせたような感覚を味わえます。


 こまかな内容について。

 「小説家になる方法」の部分では、アマチュア作家の営業方法とその心構え、編集者との付き合い方など貴重な内容が詳しく記載されています。

 くすりと笑える部分も多く、専業作家になるうえでの怒涛の準備編の部分はけらけら笑いながら読みました。

 

 あとがきにも書いてありましたが、著者の松岡圭祐先生がプロ作家になるうえで、人間関係やお金のことに悩み、解決していった手法や心構えが具体的につづられています。



●悪い点

 まずは構成について。非常に回りくどい書き方がされています。たとえば、「異性の編集者に恋心を抱いたら」の項目では、長々と別の話をされたうえ、最後にちょっとだけ恋愛の話が出てくるような。


 序盤はそれでも、まわりくどい部分が章末の結論の下地になっていますが、後半はそのような論理関係もあまりみられません。


 上記に似ている悪い点として、タイトル詐欺であることが挙げられます。まずは本書のタイトル。「小説家になって億を稼ごう」という題です。「小説家になる」→「売れる」→「億を稼ぐ」の間の根拠や理由付けがないため、タイトルはかなり誇大です。


 そして、各章のタイトル。章タイトル自体はかなり面白いのですが、タイトルだけが浮いていて本文で深掘りされていない箇所も見受けられます。


 序盤から「小説家が儲からないのは嘘」と生存者バイアス全開で、わくわくしながら読んだのですが、結局は「小説家になって億を稼ぐ」ではなく「億を稼いだ小説家の俺たち」という域を出ないように思いました。タイトルと内容の論理構造が逆になっているのはいとおしポイントが高いです。素晴らしい。


 次に、内容について。

 「小説の書き方」パートでは、一般的な指南書の技術ページとはかなり異なった方針が取られています。悪く言えば、「俺流」をそのまま本書に落とし込んだ感じです。試してみるのはいいかもしれませんが、同じやり方でうまくいく人は少ないと思います。

 とはいえ、ほかの指南書と同じ内容の部分もあるので、安易に否定せず、うのみにもせずくらいがちょうどいいかもしれません。




●まとめ

 小説家になりたい人よりも、書籍編集者になりたい人におすすめしたい一作です。そのくらい、書籍編集者がどんな人種であるかが事細かにつづられています。就活前に読んでおけばよかった。


 結論として、かなりいい本でした。悔しい。私が渇望しているのはもっとしょうもない本だったのに。


 「億を稼ぐ」ためのノウハウは、契約書の注意点や印税率の交渉方法、二作目を書くタイミングの話など、愚直な要素ばかりでしたが、よく考えたら当たり前のことかもしれませんね。


 いとおしポイントとおすすめ度はどちらかが高ければどちらかが低くなる関係になりがちですが、本作は両方とも高めという珍しい結果になりました。




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