【お役立ち度2】作家で億は稼げません

おもしろさ5

読みやすさ5

お役立ち度2

いとおしさ1

おすすめ度5


吉田親司著 エムディエヌコーポレーション



●特徴

 本書は、一つ前にご紹介した「小説家になって億を稼ごう」を受けて書かれたものです。


「【お役立ち度4】小説家になって億を稼ごう」を先に読んでから本記事を読むことをおすすめします。

https://kakuyomu.jp/works/16817139556720374007/episodes/16817139556788348669


 基本的には、「億を稼ごう」をごりごりに意識した本です。「億を稼ごう」とだいたい似たような構成で、反論したり同調したりを繰り返します。その合間合間に、著者吉田氏の経歴や苦労談などがエッセイ風につづられます。


 例えば、「億を稼ごう」では書籍編集者が持ち上げられている感が否めません。そのアンチテーゼなのかなんなのか、「稼げません」では「トンデモ編集者列伝」なるものが登場します。なかなか面白いので一読の価値ありです。



●いい点

 本書はとにかく面白い。コメディタッチのエッセイ風に書かれているので、指南書が苦手な方にも読みやすいと思います。


 とにかく著者の自虐ネタが多く、くすっと笑える箇所が多い。うまい自虐を書くことで自分にほれぼれしてしまうタイプの人って結構いると思うんですが、この著者はそのタイプだと思います。


 内容は、主に「億を稼ごう」へのいちゃもんと、新人賞を取った後のふるまい方、そして著者のこれまでの体験談です。

 特に、「億を稼ごう」の問題点には完全に同意です。


 すでに出版社から書籍化している方や、書籍化が見えてきた方におすすめの一冊です。



●悪い点

 本書は「小説の書き方」本ではありません。ちょっとくらい書き方を教えてくれてもいいのに、いじわる。とは思いましたが、本書のコンセプトとは異なるのでしょう。代わりに、おすすめの指南書をご紹介されていましたので、あとでそれも記事にしてみようと思います。


 また、よくもわるくも耳の痛い内容が多いです。出版業界は斜陽だの、なろう系は斜陽だの、著者の吉田氏は自虐的に書いていますが、これから小説家を目指す人にとってはかなり耳が痛い。痛い痛い。


 じゃあどうすればいいのか。どうしようもないんですよね。

 我々には、必死に営業活動をして、地道にキャリアを積み上げることしかできません。そんな夢のない本でもあります。


 著者は本書の冒頭で、「億を稼ごう」の感想として、「それができりゃ苦労しない」「それができる時点で天才だ」と書いています。私が「稼げません」を読んだ後に持った感想もまったく同じでした。それができりゃ苦労しないよ。


 結局は、100万人にひとりの天才が1000万人にひとりの天才に苦言を呈している、そんな構図をぼんやり眺めてみじめになって終わりです。




●まとめ

 「億を稼ごう」とセットで読むのがおすすめですが、本書単体でもじゅうぶんに楽しめるのではないでしょうか。


 また、様々な箇所でびっくり要素が開示されて面白いです。「書籍のタイトルは編集者に最終決定権があり、こちらの意見が必ずしも採用されるとは限りません」とか。たしかにそうかもしれないけれど、でも多少の意見くらいは通るんじゃないのと思っていましたが、ほぼ通らないようです。そんな……。


 本書を読んで感じた、「小説家になるための必要最低限のスキル」を以下にまとめてみます。


①たくさんのエンタメに触れること:読んだ経験の重要さが見えてきます。実際、SNSで「読んでる暇があったら書いてる」と言っている方が小説家として成功していることあったでしょうか。とにかく読まなきゃ始まりません。著者の吉田氏は「とりあえず1000冊」読むことをおすすめしています。


②書くはやさと体力:①が読め読めなら、こちらは書け書けです。出版業界では、よほどの天才でもない限りはやくたくさん書ける人が評価されるようです。なろうやカクヨムのようなサイトは、デビューを狙うための場所ではなく、「はやくたくさん書く練習場」くらいに思っておいた方がいいのではないでしょうか。


③謙虚な姿勢と大人の対応:授賞式で出版関係の方とお話したり、出版社で就活したりして思ったのですが、出版業界は特に横のつながりが強いです。ひとりの編集者に嫌われてしまったら、他の出版社からも冷たくあしらわれる、ということも珍しくないようです。とはいえ、どうしても無理な要求をされることもあります。小説家として、どんなときに下手に出て、どんなときには強気でいくべきかが具体的に書かれています。


④精神力:これは才能の話です。小説家としてあたりまえに営業活動をして、あたりまえに書き続ける精神力が、あたりまえに求められる世界のようです。著者の吉田氏は小説家になった後の「エゴサ」を推奨していますが、一般人にはとてもおすすめできません。


 結局は書いて読むしかないんだなあと感じました。となると、「カクヨム」って実は「小説家になろう」以上に小説家っぽいサイト名なんじゃないかとも思えてきます。


 




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