【お役立ち度3】官能小説の作り方:いかに妄想を物語に変えるか?
おもしろさ2
読みやすさ5
お役立ち度3
いとおしさ1
おすすめ度4
官能小説研究会著
●特徴
そもそも「官能小説」とは何でしょうか。私は単に「エロい小説」だと思っていました。しかし、本書の著者は「エロい小説」と「官能小説」を明確に区別しています。
官能小説とは、「自慰のための道具」であること。この一線を越えないためのあらゆるアドバイスが本書には詰まっています。
特徴としては、官能小説における「大事なところ」や「よくある誤解に対するアドバイス」をまとめた本といった感じです。そして、ただ書きたい人向けでなく、どちらかといえばプロの官能小説家になりたい人向けの本です。
「とにかく既存の作品を読め」要素が基本ですが、各レーベルの特徴を知るためという意味合いが強いようです。私は知らなかったのですが、官能小説ファンは作品や作家だけでなくレーベルごと愛している人が一定数いるとか。これは知らない文化でした。
●いい点
まず本書のいいところは、官能小説を書きたい「理由」別のアドバイスが充実しているところです。例えば、妄想が大好きで官能小説を書きたい人はこう書くべきだ、小説は書けるけど作品の幅を広げたい人はこう書くべきだ、といったように。
官能小説を書きたくてたまらない人には甘く、小説執筆の一環として、あるいはとにかくプロになりたいからという人には厳しめの論調です。とにもかくにも、官能小説を別のものとはき違えないための配慮といえるでしょう。
指南書としても比較的読みやすく、アドバイスも具体的でわかりやすく書かれています。
プロになりたい方向けに書かれているので、とりあえず書いてみたいという方よりは、本気で最初の一冊の出版を狙う人が他の指南書にプラスして補助的に読むのに適しています。
●悪い点
よく言えば無駄がない、悪く言えばボリューム不足の指南書かなと思います。特に、実際に書いてみる箇所の指南はかなり省略されており、おおまかにしか書いてありません。プロットの立て方や書き方を知りたいのであれば、一般の指南書を読んだ方がよいでしょう。
読者が一番気になるであろう「官能小説特有の表現」についてはかなり具体的に書いてあり、セリフをどう挿入すればいいか、登場人物の行動はどうすればいいか、性器はどう描写すればいいかなどが初心者にもだいたいつかめるようになっています。ただし、濡れ場以外の「官能小説」らしい表現については記載がありませんでした。そのあたりは「とりあえずいろんなレーベルの作品を読め」というアドバイスに丸投げしています。本書を読んだ後にいざ書くとなれば、濡れ場以外のシーンでつまずくかも。
初めて書く人にはやや不親切、ある程度執筆の腕がある人にも物足りない、かゆいところに手が届かずにもやもやします。
なんとなく、もう少し官能小説制作の裏側を知りたかったのですが、野暮な望みでしょうか。
●まとめ
私はアルバイトでエロ漫画の編集業務をしていたことがあります。1年ほどエロ漫画の部署にいて、何百本ものエロ漫画を読み、生々しい性器の絵に白や黒の修正をずばずば入れてきましたが、それでも自分にエロ小説や官能小説が書けるとは思いません。
理由は自分で書くのは恥ずかしいからです。本書の著者様は官能小説が書けないそうです。やはり理由は恥ずかしいからだとか。わかる。私もたぶん書くとなったら、文学的な表現とかで濁してしまう気がする。
カクヨムでも、運営に怒られるか怒られないかのぎりぎりのエロを書いてPVを稼ぐ人を批判する風潮が一部ありますが、エロの書き手はあれでもすごいメンタルの持ち主なんだなと実感します。
何がともあれしっかりした指南書なので、ハズレを引きたくない方におすすめの一作です。
小説を書きたい人のための小説指南書レビュー ぬるま湯労働組合 @trytri
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