【お役立ち度1】一生使える小説の書き方:なぜ黒髪美少女は戦うのか? 初心者のための創作入門(真・小説神髄)

おもしろさ3

読みやすさ5

お役立ち度1

いとおしさ4

おすすめ度1


宮本くみこ著 


●特徴

 本書は小説初心者向けの創作指南書です。著者の創作体験をベースに、小説の書き方がわかりやすい言葉でつづられています。Web小説のように数行ごとに空白が開けられているので、Web小説ユーザーの方には親しみやすいのではないでしょうか。


 他にも、本書の特徴としては、「物理的に薄い」ということが挙げられます。kindleで読んだのですが、奥付なども含めて58ページ。ブログとかコラムとかそのくらいの分量です。さくっと読めてうれしい薄さ。いとおしポイントが高いです。


 著者の宮本くみこ氏ですが、奥付の自己紹介には「作家。フリーライター。」と書かれていました。しかし、インターネットで宮本くみこと検索しても、占い本や創作指南書ばかりで、肝心の小説作品が出てきません。


 もう少し調べてみると、ココナラ(スキルマーケット)で宮本くみこ氏のアカウントを見つけました。アカウント名は、「宮本くみこ 占いライター@小説家目指してます」。


 あ、もうすでにいとおしい。


 いや、作家ちゃうんかい。趣味の範囲で実用書を出版されているライターさんのようですね。Twitter(@935speedwriter)のbioによると小説家になろうにも投稿中らしいのですが、恥ずかしいのでどの作品かは内緒とのこと。


 いや作家ちゃうんかい。


 とはいえ、作家でなくてもいい指南書を書かれる方もいるはずです。プロフィールがちょっと盛ってあったりしてうさんくさいのに、とんでもない名著だったパターンが一番感動的ですからね。

 今回もいい点と悪い点に分けて詳しくみてみましょう。



●いい点

 とても読みやすいです。長く字書き活動をされているライターさんとだけあって、文章が読みやすい。内容がするすると入ってきます。


 本当に小説を書いたことがない方や、書こうとしたけどうまくいかなかった方にとって、一般の指南書に書いてある三幕構成などの話は少しハードルが高いかもしれません。本書はそのあたりが省略されているので、頭を使わずに気楽に読めるのがすてきポイント。


 嘘偽りなく初心者向けなので、小説指南書をちょっとつまみたい方におすすめです。



●悪い点

 結論から言うと、非常に香ばしく、いとおしい指南書でした。

 著者のうさんくささについては先述したので割愛し、内容の解説に入っていきましょう。


 まず初めに言っておきたいのは、本書には嘘やでたらめは書いてありません。上から目線の指南書でもなく、気持ちよく読める一作です。

 問題なのは、内容がとにかくぺらぺらなこと。本自体も薄ければ、内容も薄い。単に薄い分にはよいのです。タイトルであたかも「厚い」本であるかのようにアピールしているのがまずかった。


 タイトルには「真・小説神髄」とあったのでちょっと期待したのですが、坪内逍遥にぶん殴られても文句は言えないほど何の関係もありませんでした。「真」の意図もよくわかりません。


 表紙では、「脳科学と心理学を使用して」解説されているという旨の謳い文句があります。たしかに、本書には「人間の脳はこういう作品を求めている」という解説パートがあります。しかし、脳科学・心理学としては眉唾物で、ソースもありません。


 よく読めばわかるのですが、実際は「面白くない作品」の裏返しをしているだけ。たとえば、「緩急のない作品は面白くない(と宮本氏が思っている)」だから「緩急をつけなさい」という解説手法が取られています。


 これはよくある「悪い解決方法」の一種です。たとえば、「行動力がない」という欠点を持っている人がいるとします。その短所をどう改善するのかと問われて、「積極的に行動します」と答えるのが許されるのはせいぜい小学生まで。

 「行動力」とは何かを定義したうえで、自分に不足しているものや行動力がない原因を模索し、具体的にはこんな学習と実践によって適切に身に着けます、くらいは答えるのが大人というものです。「緩急がないので緩急をつけなさい」だけで済ますのはあまりにもお粗末と言わざるをえません。


 ほかにも、「テーマを決めよう」の回でテーマが思いつかないときはどうすればいいか。著者の答えは「考えましょう」です。


 この薄っぺらさこそが、自己啓発本の「神髄」とも言えるでしょう。



●まとめ

 文学賞の応募原稿の経歴欄などを見ていると「出版経験あり」と書いている人がたまにいますが、こういう本なら確かに誰でも出せる。出版を目指す人にとっては心強い事実です。


 アマゾンレビューには、「本を出してみようかなという気持ちにさせてくれる本です。」という☆5レビューがありました。読後にはこれが皮肉だとわかって笑ってしまいました。


 カクヨムやなろうで連載されている「小説の書き方」系記事の方がよほどしっかりした内容のものが多いので、わざわざ本書を手に取る理由はないかもしれません。

 私はというと、こんなにいとおしい自己啓発書に出会えてよかったと思いました。同じ趣味を持っている方には心躍る一冊になること間違いなし。


 表紙イラストの女の子はとてもかわいいので、イラストだけ眺めてそっ閉じするのもいいかもしれませんね。


 



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