最弱怠け勇者と鬼姫の暴走☄奇譚!!
紡生 奏音
オレオニ☆ボーソーキタン!!
「何してんの!? 早く
オレは勇者。
ちょっと前までヒトの姿をしていた魔王だったが、今は姿を変え、獰猛そうな
さっきの
「……えぇ~?」
無意識だったが、オレは即座にそんな返事で拒否していた。
魔王なんかに勝てやしない。オレはそう思っていた。旅立ってから、一度も
スライムに負け、ネズミに負け、コウモリに負け、ゾンビに負け、オオカミに負け、ミイラに負け、何か変な魔術師に負け…………とにかく負けに負けて負け続けている。
負けを繰り返しているうち、
こんな性格を抱え、ここまで来て魔王の城から「姫」を連れ出せたのが奇跡なんだ。……その結果、魔王に目をつけられ、「姫」もとい鬼姫に罵倒される
「いいから
鬼姫からの催促があったが、王様には「姫を助けてくれ」としか言われてない。……つまり「魔王を倒すこと」は依頼されてないんだよな。
第一、鬼姫も鬼姫だよ。わざわざ「倒せ」なんて言わなくていいのにさー。せっかく魔王の城から出れたんだし、ここはさっさと逃げようぜ? 後は他の
もう一度拒否しようと口を開きかけたら、後ろから思いっきり
振り向くと、金髪縦
その瞳にはどこにでもいそうな顔立ちの青年――つまりオレが、面倒くさそうな顔をして映っていた。
……困ったなぁ。オレは伸び放題でボサボサの髪をポリポリと
言うこと聞かなかったら、魔王よりむしろ
そんなことを考えて、オレは(仕方なく)曲がりなりにも覚悟を決めた。
「やぁ~っ!!」
武器を構えると、オレは
オレとしては精一杯腹の底から声を出したつもりだったが、鬼姫にはそれが士気のないもの――やる気のないものに聞こえたらしい。ハァ……というあからさまに大きなため息が後ろから、オレの耳に入って来た。
(
魔王が全速力で走って来るオレをじっと
とっさにオレは方向転換して、ソレを避けようと試みる。
だが、そんなオレを逃すまいと、火の玉はしっかりと背後からまっすぐにオレの元へ飛んで来た。そして――。
――――ドカーンッ!!
見事命中。
もろに火の玉を喰らったオレは吹き飛ばされ、その場に倒れ込んだ。
……あぁ、花畑が見える。
『将来あなたは立派な勇者になるのよ』『うんっ!』
脳内で母さんと幼い頃交わした会話が反響する。
あの頃の正義感はどこへ行ったのやら。
ごめんよ、母さん、こんな情けない勇者になっちまって。だけど、オレは頑張ったんだ。何とか「姫」を助け出せたんだ。すまねぇが、オレは母さんを残して天国に旅d……――ゴバァッ!!
「何やってんのよ! だらしないわね!!」
無事に
……せっかく、奇跡的に
鬼姫はそんなオレをいたわることもなく見下ろしながら、腕を組み、不機嫌そうに仁王立ちしている。
「アンタがそんなだから、アタシがやらなきゃいけないじゃない!
文句をブツブツとつぶやきながら、鬼姫が右手を天に
杖を握り締めながら、鬼姫がふうと息ついて、早口に呪文を唱え始めた。……何を言っているのか、魔法を勉強していないオレにはさっぱりだった。
魔王はというと、オレが弱かったせいなのか、鬼姫が何をしようが全く気にも掛けていない様子で、すっかり油断していた。
「――行くわよ! 出でよ、
呪文の詠唱が終わり、鬼姫が声高らかに叫んだ。
……。
…………。
………………。
だけど、しばらく経っても何も起こらなかった。
少しは身構えた魔王だったが、そうだと分かるとまたすぐに余裕の態度を見せる。
なんだ、偉そうに言っておきながら、失敗したんじゃないのか? オレも何がしたかったんだろうと疑問に思っていた。……けれど、少ししてから、オレは確かに、小さな物音をこの耳で聞き取った。
――――ひゅるるるる…………。
それは「何か」が降って来る音だった。オレは何だろうと空を見上げる。
――そこには燃え盛っている巨大な隕石が見えた。
その隕石が魔王
地上に隕石が近付くにつれ、辺りの気温が上昇していく。
全てを焼き尽くすようなその熱さに、オレはつと汗が頬を伝うのを感じた。
ふと、まだ動けないオレの首元を鬼姫がぐいっと引っ張った。驚いて後ろを見ると、勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、鬼姫が魔法で
「もうすぐよ。 見ていなさい」
鬼姫が魔王に指差しながら、オレにそう言った。
何かとんでもないことが起こりそうだと恐れ
さすがに、その頃には魔王も隕石には気付いていた。あともう少しで隕石が着地するというところで初めて、魔王が慌てふためいて、翼を広げ飛び立つ。
けれど、隕石もそんな魔王を逃がすまいと、どこまでも魔王を追い続けていった。
そして、そんな逃亡劇が始まって間もなく。
――――ドッカーンッ!!
――見事に、隕石が命中し、魔王が
「た~まや~!!」
煙が
こ、
オレは恐怖に震えながら、ただただ外の光景と鬼姫とを見つめていたのだった。
しばらく経って。
煙が消えると、大方鎮火した炎と、魔王がいたであろうその場所に大きな穴と黒い焼け跡だけが残されていた。
――魔王が、倒されたのである。
その当人はというと。
オレはまだこの鬼姫への恐怖を
「ん~っ、これで『一件落着』ね。 さあ、とっとと帰るわよ」
鬼姫はそう言うと、オレに背中を向けてスタスタと歩き出した。
素直に従えず、オレはその場に立ち尽くす。
一応「姫」は助けたものの、「勇者」であるオレは魔王を倒していない。しかも、あろうことか、助けた「姫」が魔王を倒したのである。……こんな異例の事態に、決して明るい未来が待っているとは言えないだろう。
どうすることもできず、オレはただひたすら青ざめるしかなかった。
……まぁとりあえず、こうして世界は救われた――というワケだ。
ちなみにその後、オレはどうなったかというと、鬼姫に引っ張られ、城へと無理やり連行された。そして、どういう
最弱怠け勇者と鬼姫の暴走☄奇譚!! 紡生 奏音 @mk-kanade37
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