第五話 藁人形と恐怖

「あいつ、どこに行った」

 司は、目を擦りながら、悔しそうに拳を握る。


 雷の強烈な光と音で、我に返った紀香は、辺りを見回した。


紀香

「司。翔也を探さないと。翔也を見つけて、早くここから出よう」

 紀香は立ち上がり、司に向かって言った。


「翔也?あいつもここに来てるのか」

 司は、驚いた顔をしている。


紀香

「なんで、そんなに驚いているのよ」


「いや、だってあいつ、用事があるって言ってたぞ」


紀香

「用事?でも、家に親はいなかったって先生が言ってたわ」

 紀香と、司は顔を合わせる。


 三人の間に、不穏な空気が流れた。 


義明

「だから、言っただろう。藁人形は、翔也なんだって」

 突然大きな声を出す義明に、二人は驚いてしまう。


紀香

「なに言ってるのよ。早く翔也を、、、」

 紀香は、ふと、気配を感じ黙り込んだ。



翔也

「ごめん。遅くなった」

 全身浅い傷だらけの翔也が、木の隙間から歩いてきた。

 息を切らし、辛そうにしている。


「待て。そこから動くな」

 司は翔也を制止した。


翔也

「なんだよ。どうしたんだよ」

 翔也は、手のひらを前にかざし司をなだめている。

 

「おまえ、今までなにしてた」

 司は、鋭い目を翔也に向ける。


翔也

「何って、藁人形から逃げてたに決まってるだろ。お前らだって追われただろう」

 翔也は、必死だった。

 だが、その言葉を聞いた司は、眉を上に持ち上げ、なにか、ひらめいたような顔をした。


「藁人形ってなんだ?」

 司は、真面目な顔でとぼける。


翔也

「いや、おまえ、逃げてただろ」

 翔也の額には、汗が滲み、生唾を飲んだ。


「俺は、そんなものから逃げていたなんて、一言も言ってないぞ。なんで俺が藁人形から逃げていたと知っているんだ」

 司は、口元をにやつかせ、得意げな顔をした。


翔也

「待てよ。俺を疑ってるのか。一般的に考えて、自分が追われていたら、おまえらも追われている、と考えないか?」


「じゃあなんで、藁人形が居なくなったと同時に、そこから出てきたんだ」

 司は、木と木の隙間を顎で指す。


翔也

「そんなの偶然だろう。おい、おまえら、どうしたんだよ」

 翔也は、怪しんだ顔をしている三人を見る。


義明

「おまえだろ。あの時、おまえの後ろには、、、」


紀香

「翔也、どっちなの。私にだけは、嘘をつかないで」

 紀香は、義明の話を遮り、翔也の元へと歩いていった。



少しの沈黙の後、翔也は呟く。


翔也

「そんな事、お前らが決めろよ」

  

 その、翔也の声は、紀香の後頭部に響き、脳が揺れる感覚に陥った。

 頭が真っ白になり、その場に倒れ込む紀香。





 次に目を開けた時には、紀香は放課後の教室で、顔を伏せていた。

 

担任

「おまえ、こんな時間までなにやってるんだ。親御さんが心配するだろう」

 教室のドアが開き、担任が入ってきた。


紀香

「今日は、親いないんで。すいませんでした。帰ります」


担任

「雨降ってるからな。気を付けて帰るんだぞ」

 担任は、そう言い残すと教室を後にする。


 紀香は、無言のまま帰り支度を始めると、ビニール傘を片手に、雨の中に消えてゆくのだった。

 

 


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藁人形 SpaceyGoblin @spaceygoblin

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