邪竜少女グレーテル&演劇少女ドロテア
――これはドロテアの幼少期の話である。
幼少期、ドロテアはドイツの秘密研究施設にいた。その施設では幻獣狩りのために非人道的な研究を日夜繰り返していた!
「……検体番号G-4号の様子はどうだ?」
「テストは失敗です………検体番号G-4号は幻獣を恐れているようで戦おうとする意思を見せません!」
「検体番号G-4号の肉体には最強の幻獣であるドラゴンの因子を埋めているんだぞ……G-4号の肉体に電気ショックを入れろ!」
幼きドロテアを検体番号としか扱わない研究者によって地獄のような日々を送っていた。
しかし、ドロテアにとって永遠にも思われていた研究施設での過酷な日々は唐突に終わりを告げた。過酷な実験の日々で溜まっていたストレスの中で生まれたドロテアの中にあるもうひとりのドロテア……邪竜グレーテルが目覚め研究施設を壊滅し逃亡したのだ。
その後ドロテアは孤児院生活を経て、篤志家であるフンボルト家に引き取られ現在の演劇少女になったのだ。
◆◆◆◆◆
「ドロテア、今日は散々な一日だったじゃないか」
精神世界、ドロテアと同じ顔をした邪竜グレーテルはドロテアに語りかけた。
「……グレーテル」
「……ところでお前は誰を選ぶんだ? 吸血鬼か? 探偵か? 人形か?魔女か?」
グレーテルの問いにドロテアは黙り込んだ。
「ドロテアのことだから全員が幸福になる道を探そうと思っているだろうが、それは問屋が許さない。選択するんだ。その結果、選ばれなかった者が不幸になろうともな」
「……それでも私は――ドロテア・フンボルトはみんなを幸福にする道を選ぶ。選ばなかったことで誰かが不幸になるのは私にはとても耐えられないの」
「……頑固者め」
グレーテルはドロテアに向けて苦々しい表情を見せた。
「ところでグレーテルは私に質問をするために現れたの?」
「オレはただドロテアをからかいに来ただけだ……優柔不断な駆け出し女優をからかうのは愉しいからな」
そう言ってグレーテルは笑った。
「……グレーテルは本当に邪竜ね。人間を玩具にしか思ってない」
「……今度、幻獣に襲われたときに助けてやらないぞ」
グレーテルは拗ねた素振りを見せた。
「そろそろ時間切れのようね」
精神世界が崩れ落ちようとしていた。ドロテアの覚醒が近いのだ。
「もう終わりか、ドロテアとの対話の終わりはいつもあっけないものだな」
精神世界の崩れた部分が光が差し込みグレーテルの姿が消えていった。それと同時にドロテアの意識が薄れていった。
◆◆◆◆◆
夢から目覚めたドロテアが最初に見たのはいつの間にかベッドの中に潜り込んでいたサフィーの姿だった。
「……サフィーちゃん、勝手に私のベッドの中に潜り込んで」
ドロテアはサフィーを起こさないように起きようとすると下宿の部屋のドアが突然開いた。
「ドロテアくん、今から朝食を取りにカフェに行かないか。今日は演劇の稽古はお休みなんだろう?」
メーディアが入室と同時に朝食への誘いをやってきた。
「メーディア、今は寝起きだから、もう少しのんびりしてからね」
ドロテアはメーディアを受け流し水差しから水を飲んだ。
「そうは言ってもドロテアくん、後に二人控えてるんだ。のんびりしてたらあとがつっかえるよ」
「え?」
ドロテアが疑問に思う暇もなく階段を登る音が二人分響きドロテアの部屋にエリスとブリジットが入ってきた。
「ドロテア、メーディアさんとブリジットさんとの協議の結果4人仲良く朝食をとることを決めたの。これは確定事項だから拒否権はないわ」
エリスはドヤ顔でメーディアとブリジットの話し合いの結果を話した。話し合いが喧々諤々だったことは想像に難くない。
「ドロテア、探偵風情に丸め込まれたのは癪だけど淑女協定を結ぶことにしたわ」
ブリジットは憮然とした表情を見せた。
「……何よ、騒がしいわね」
サフィーもこの騒ぎに眠りから覚めた。そして恋敵たちの姿を認め不機嫌な表情になる。
「……ドロテア、どういうことなの? 少し説明してもらえる?」
ドロテアは思わず苦笑いした。
幻想交差のファンタズマゴリア 夏川冬道 @orangesodafloat
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