秘術少女ブリジット


 劇の稽古を終えてドロテアは下宿への帰路についていた。

「……今日は忙しい一日だったな」

 ドロテアはそうつぶやきながら辻馬車の駅に向けて歩いて行った。

 その途中、占いのテントがドロテアの目に止まった。ドロテアはできるだけ足早に通り過ぎようとした。

「……ドロテア、こっちにいらっしゃい」

 甘い声が響き、ドロテアはテントの中に向かっていった。

「……ブリジット、わたしは帰り道を急いでいるの」

 赤髪の妖艶な美女、ブリジットは蠱惑的な笑顔を見せた。

「クスクス、今日のドロテアはいつにもまして女の匂いが漂っているわ……嫉妬したいぐらいにね」

 そう言ってブリジットは自分の顔をドロテアの顔に近づけて頬を舐めようとしていた。

「……ブリジット、何をしているの!?」

「決まってるでしょ……ドロテアの所有権はブリジットにあることを証明するマーキングをするの、ドロテアは優しいから悪い泥棒猫と仲良くしようとするからね。本当はあの吸血鬼と早くイチャイチャしたいんでしょ?」

 ドロテアの背筋がゾッとするほど冷えた。ブリジットは独占欲が強い傾向があったが、今日のブリジットはかなり過激だ。 

「ドロテア、アナタは私の救世主……暗闇の世界で生きてきたワタシに射した一筋の光。だからドロテアの笑顔は私だけに向けてほしいの」

 ブリジットは光の消えた瞳でドロテアに懇願した。その瞳には薄っすらと涙が流れていた。

「……ブリジット、また悪夢を見たの?」

 ドロテアは優しい瞳でブリジットを見た。ブリジットは無言で頷いた。

「ブリジット、もうあなたは孤独じゃないよ。私や、サフィーちゃんもいる。不安なことがあればいくらでも話を聞くから哀しい表情をしないでよ」

 ドロテアはブリジットの赤髪を優しく撫でた。ブリジットは髪を撫でられたのが嬉しかったのか少しずつ穏やかな表情に変わっていった。

「ドロテア……やはりアナタは私の光」

 ブリジットは誰にも聞こえないように呟いた。

 そのままドロテアは1時間ほどブリジットの話を聞いてあげた。


◆◆◆◆◆


 ブリジットと別れ下宿にたどり着いたときはすっかり夜になってしまった。扉を開けるとサフィーが見るからに不満げな顔で仁王立ちしていた。

「ドロテア、一体夜遅くまでどこをほっつき歩いていたのかしら? またあの魔女に誑されていたの?」

 ドロテアはドキッとした。

「まぁ……そんなところかな」

 ドロテアは苦笑いしながらサフィーの矢のような視線をかわす。

「ブリジットめ……今度会ったときは目にものを見せてやるわ」

 そんな中サフィーはブリジットへの闘志を密かに燃やしていたのであった。

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