人形少女エリス

 昼と夕方の境目の時間、数分前まで、ドロテアの所属する劇団では舞台の稽古が熱心に行われていた。今は稽古は一段落し休憩タイムだ。

 ドロテアはさっきまで行われた稽古の疲れを癒やすために稽古場近くのカフェを訪れていた。アイスティーを飲みながらドロテアは稽古に熱くなった心を冷ましていく。するとドロテアの座るテーブルにの向かい側にプラチナブロントの美女が座ってきた。

「ドロテア……相席お願いできるかしら?」

「……エリスさん、空いてるテーブルは他にもありますよ」

 ドロテアはエリスに他のテーブルが空いてることを指摘した。しかし、エリスは動く気配を見せなかった。

「いいえ……エリスはドロテアと一緒に紅茶が飲みたいの」

「はぁ……わかりましたよ」

 劇団のトップ女優の懇願に負けたドロテアだった。


「ところで、ドロテア……女優のしごとは楽しい?」

 急にエリスはドロテアに質問をぶつけてきた。

「エリスさん……演技の仕事は大変なことをあるけれど概ね楽しいですよ」

「そう……エリスはドロテアに人形じゃないと言われてから演技の仕事が楽しくなってきたわ」

「エリスさん……」

 ドロテアはエリスが泣きながら自分は人形だと告白したことを思い出していた。ドロテアはサフィーの助けを借りて彼女の壊れかけた心をなんとか救うことができた。それ以来、エリスはドロテアの距離が近づいてきたのだ。

「ねぇ……ドロテア、あなたが望むならエリスが特別に演技のレッスンを実践形式でつけてもいいわよ。返事はいつでも構わないわ」

「うーん、もう少し自分の演技の実力を見極めてから考えることにします」

 ドロテアはエリスの特別レッスンをやんわりと保留にした。

「そう、別に結論は急かさないわ。ドロテアの気持ちが固まったらいつでもエリスに答えを教えてちょうだい」

 エリスは穏やかな口調で対えたがその目はどこか寂しそうだった。


 そのままドロテアとエリスはティータイムを過ごし仲良くカフェを出た。外に出るとどこか湿った空気を感じた。

「エリスさん、一雨来そうですね」

「そうね……」

 そう言ってエリスはバッグから小さな傘を取り出してドロテアに渡した。

「エリスさん、これ借りてもいいんですか!?」

「えぇ、ドロテアが雨に濡れて風邪を引かないようにね」

 エリスは微笑んだ。その微笑みはドロテアが思わず恋に落ちてしまいそうな破壊力があった。

 そして、ドロテアとエリスは二人並んで稽古場に向けてアルイていった。

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