探偵少女メーディア


 早朝4時ごろ、ドロテアは下宿のキンバリー夫人に電報が来たと告げられた。眠気まなこでドロテアは電報に目を通してみる。するとこんなことが描いてあった。


『ドロテア・フンボルト様へ、テムズ川近くにある動物園でレオポルドがライオンの檻に誤って入り込み出られなくなった。この意味が理解できるならベイカー街のメーディア・ホームズのオフィスに至急来られたし。MH』


 内容がいまいち理解できないがドロテアは今からベイカー街まで向かわないといけないらしい。朝に弱い吸血鬼のサフィーを横目に、手短に朝食を済ませると辻馬車を止めて一路ベイカー街に向かった。辻馬車は早朝で霧が立ち込めるロンドンを風のように走った。

 数十分ほど辻馬車を走らせ、ドロテアはベイカー街に降り立った。彼女の足は迷うことなく一つの下宿にたどり着き扉をノックした。するとまるで事前に打ち合わせ済みのように下宿の女夫人が出てきて下宿内の一室に通された。ドロテアは恐る恐るドアを開けた。

「ドロテアくん、今日こそキミの答えを聞かせてもらうよ」

 灰色の髪の少女、メーディア・ホームズがドロテアをでむかえた。

「メーディア、私は探偵助手にはならないって何度も言ったでしょ……それに、早朝からいたずら電報を送ってきて電信係を困らせないでよ」

「なるほど、ドロテアくんはボクの電報に込められたメッセージを伝わらなかったようだ……ボクは愛の言葉を直接的な言葉ではなく迂遠な謎掛けで伝える傾向がある……キミに上手く伝えることができなかったのは謝罪するよ」

「だったら怪電信じゃなくて直接的な言葉で伝えてよ!」

 ドロテアは頬を膨らませてプリプリと怒った。

「ドロテアくん、早朝に呼びつけたお詫びとはいってなんだが今日のランチを奢ってあげよう……美味しいフィッシュ&チップスが食べられる店を見つけたんだ。そこで電報のメッセージをゆっくりと解読しようじゃないか」

「ごめんなさい、昼から舞台の稽古があるのでメーディアとランチを取ることができないの……埋め合わせはまた今度するから」

「むぅ……つれないなぁ。でも埋め合わせをきちんとしてくれるんだね……それは安心したよ」

 メーディアは、そう言うと口を波線の形に曲げた。

「メーディア、そんな顔をしないの」

 ドロテアは苦笑いをしながらバスケットからボール紙の小さな箱のようなものを取り出した。

「ほら、これでも食べてなさい……どうせ昨日の夜からろくなものを食べてないでしょ?」

 メーディアが箱を開けてみると簡素なサンドイッチが入っていった。メーディアは思わず破顔した。

「ドロテアくん……キミを必ずボクの探偵助手にしてあげるよ」

 メーディアは誰にも聞こえないようにつぶやいた。

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