夢でみた世界
沖田一文
第1話 夢の世界
結衣は家族でデパートに来ていた。のどが渇いたので自販機で飲み物を買おうとどれにするか悩んでいた。しばらく悩んだあと、ようやく買うものをきめ、お金を入れようとかばんから財布を取り出そうとする。そこで異変に気付いた。今まで人の賑わいがあったのが、今はない。辺りを見渡すと誰もいなかった。急いで飲み物を買おうと、自販機を向くと、異様な気配がした。その方向を向くと、両手に大きな鋏を持った人?がこちらに歩いてきていた。結衣はすぐに逃げる。渡り廊下に差し当たったところ、振り返り様子を見る。さっきの人はいない。再び前を向くと、さっきの人が目の前に立っていた。ハサミで腕を切られそうになるところを結衣はハサミを鷲掴みにし、開かないように抑える。それから反対の手で相手のもう一方のハサミも封じようとする。しかし、軽く手を切られてしまう。痛みで一瞬力が弱まり、抑えていたハサミから手が離れる。それから結衣の肩にハサミを刺され、結衣は後ろによろめく。痛みで意識が飛びそうになる。体から力が抜けて、立ち上がることもできなかった。相手のほうを見ると、ハサミではなく、重そうな鉄の棒を持ってこちらに歩いてきていた。その人はゆっくり歩き、私の背後に回る。結衣は終わりを察して目をつむる。そして、頭に重苦しい衝撃を受け、意識を失った。
気が付くと、そこはどこかの小屋の中だった。床に薄い布を敷いただけのものと、薄い布のようなブランケットが私に掛かっていた。上体を起こすと、体はすごく軽く感じた。浮遊感があった。そこに男の人がやってきた。
「起きたのか。浮遊感を感じるのは不思議なことではない。今の君はこんなだからね。」
そういって鏡を向けてきた。その鏡を見ると、私の姿は薄くなっており、足元だけ実体をなしていた。
「今の君はほぼ魂の存在が露わになっている状態だ。このままでは近いうちに消えてしまうだろう。まあ、ここでゆっくりするといい。」
男は不気味な笑みを浮かべる。
ここは、この空間は、この世界は、どこかで・・・。
既視感のようなものを感じる。私は、たしかデパートで・・・。
私は、第一天使の巫女姫・・・。
どういうことだ?私はいったい何を?
ここは現実ではない。私が巫女姫だった頃の世界。
自分が何者かが分かってくると、それまでの記憶がフラッシュバックする。抱えきれないほどの記憶が流れ込んでくる。まだすべてを思い出したわけではないけど、とにかく私はこの世界から脱出しないと。
私は立ち上がり、小屋から出ようとした。その瞬間、横から無数の矢が群れをなして飛んできた。急いで小屋を出て、矢をよける。小屋の外は黄金色に輝く小麦が無数に広がっていた。そして、小屋からさっきの男が出てくる。
「おとなしく消えてくれれば良かったものを。どうやら思い出したようだな。仕方ない。俺が消してやろう。」
男は潮の流れのように飛ぶ矢たちを操り、私に仕掛けてきた。そう、あの男こそデパートにいたハサミを持った人だ。直感的にわかった。
それから、矢の大群との追いかけっこが始まった。私には力がなく、逃げて隠れての繰り返ししかできなかった。広大な麦畑で走り回った。
どのくらい経ったのかわからない。今も変わらず、逃げ続けている。疲れが溜まり、動きが鈍くなってきた。矢をギリギリでしかよけられなくなってきたころ、私の近くに光が輝き、そこから誰か出てきた。
「姫よ、お逃げください。ここは私が。この先をもう少し行けば、元の世界に帰れます。」
巫女姿の人が弓を構えて、向かってくる矢の大群に応戦した。私は言われた通りに進む。途中で振り返って見ると、その巫女は何かを唱えていた。私はあの巫女を知っている。前にも会ったことがある。でもそれ以上は思い出せなかった。巫女は私に何か呪文をかけると私の姿がもとに戻った。そして、私は急いで言われた先にある光に飛び入った。
「姫様、私はいつまでも応援しています。たとえ私のことを覚えていなくてもあなたを助けましょう。どうかお元気で。」
残った巫女はそう別れを告げると、再び矢の大群に相手をした。
「私が相手です。さっさと散りなさい!」
そして、巫女の攻撃によって矢の大群は消え、それを操っていた男も去っていった。
結衣に巫女姫が憑依したものと思われる。巫女姫は巫女としての力を失い、結衣を支えた。
巫女姫は仲間とともにかの世界で暮らしていた。かの世界は戦いが続き、巫女姫とその仲間たちも戦った。争いはおさまったものの、治安はあまりよくはなかった。巫女姫は力を捨てて、一人の人間を助けることに決めた。姫としての役目を終わらせ、普通の暮らしをしてみたかったから。そして、争いの多いこの世界に嫌気がさしたから。巫女姫はその道を選んだ。仲間はその気持ちを察し、隠れて出ていくのを止めはしなかった。姫の代わりにこの世界を守っていくことにしたのだ。
夢でみた世界 沖田一文 @okitaichimon
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