第24話 騒動の後の平和な日常
魔縁と母上の話をした次の日。
母上はずっと出てくるのかと思いきや、結構疲れるからという理由でアルダーの珠の中で見守ると言って引っ込んでしまった。
有事の際には出てきてくれるらしいけど……四六時中見られてると思うと少し恥ずかしいな。
「プライベートは覗かないようにしてるから安心してくださいね。
危険察知の魔術を使ってますので、それが反応すれば出てくるようにしますから」
「うわっ、びっくりした……。
わかったよ、母上」
僕の思ってたことが分かったのか、いきなり母上に話しかけられてびっくりしてしまう。
でもそれなら安心だ、僕も15歳だしすべてを母親に知られるのは恥ずかしいからね……。
「ふわーぁ……おはようクレイグ。
昨日はいろいろあって大変だったわね、メイドさん……いえ、クレイグのお母様はなんて?」
宿の部屋を出て顔を洗っていると、洗面所でサラに声をかけられる。
「危険が察知出来た時だけ出てくるって、普段は疲れるから出てこないみたいだよ」
「そうなんだ、それを聞いてちょっと安心したわ」
「安心って?」
「はっ……えっと、ほら!
保護者同伴の冒険者なんて恥ずかしいじゃない!?」
確かにそれはそうかもしれない、でも顔が赤くなって慌てることじゃないと思うけどなぁ。
「おはよ……昨日はひどい目にあったわ」
昨日のお仕置きの疲れが抜けきってないのか、すぐれない表情のジェマが目をこすりながら洗面所に入ってきた。
「お疲れ様だよ、魔縁は何か言ってた?」
「部屋について平謝りされたわ、あんな魔縁初めて見たからびっくりよ。
でも……私は制限付きで顕現出来るようにしてほしいかな?」
「えっ、だって過激派になるであろう魔族よ!?
そんなの制限付きでも実体で顕現したら危ないんじゃない?」
ジェマのまさかの提案にサラが待ったをかける。
実際サラの言う通りだと思うし、顕現させるメリットといえば……母上と同様身に危険が及んだ時の戦力だろうか。
ただあの魔縁が素直にいう事を聞くとは思えないのが問題だよね……流石に僕たちの実力じゃ勝てるかどうかわからないし。
「危ないだろうけど、魔縁は生きているときは刀を使ってたのよ……修行をつけてもらえないかなって。
一応学校の授業と独学で使えてはいるけど、さらに強くなるには誰かに師事したいなって思ってる。
魔縁ならそれを出来るだろうし、道場や訓練所に通わなくていいから冒険者を続けながらやれて便利だなって思ったのよ」
ジェマの意見を聞いてサラも「うーん……」と唸りながら悩みだした、紋章の画数を増やして強くなる以外の手段はあったほうがいい。
それに戦闘技術や基礎は紋章の画数に関係なく自身で鍛えなきゃならないからね……その点では僕も補助魔術に関しては基礎なんて無いようなものだから鍛えないと。
今度母上に色々教えてもらおうかな。
「ジェマの意見には賛成したいけど、問題は制限よね……。
魔縁から離れれる距離を制限したら修行にならないかもしれないし、難しいわ」
「サラの言う通りよ、昨日一晩考えてみたけど思いつかなくて」
僕も話を聞いて少し考えたけどさっぱりいい案が出てこない。
僕より頭がよさそうなサラとジェマが考えてダメなんだから当然だろうけどさ。
「話は聞かせてもらいましたよ!」
「っ……母上、いきなり飛び出さないでよ。
プライベートは覗かないんじゃなかったの?」
いきなり飛び出してきた母上にびっくりしてしまう、サラとジェマもびっくりしたのか僕から飛びのいて目を真ん丸にして固まっちゃってるし。
「トイレでもなかったですし、こんな真昼間からイケナイ事なんてしないだろうからから暇つぶしに聞いてたんですよ……。
それよりジェマさんの悩み、解決出来ると思いますけど……どうですか?」
「本当ですか!?
でも一体、どういう制限を?」
ジェマは母上の言葉を聞いて我に返り食いつく、それ以上近づくと危ないと思うよ?
「私が顕現している間だけ顕現出来るようにすればいいんです。
それなら周りに害なすこともないですし、危険が及んだ時に無理矢理戦力にも出来ますから」
「それがどういう制限に……?」
「その刀に入ってる魔族より私のほうが強いですから。
何をどうしようと負けないので、服従させれば問題ありません」
あっけらかんとすごい事を言い放つ母上に僕たち3人は固まってしまう。
ジェマの体が本調子じゃなかったとはいえ、あれだけ強い魔縁に負けないって……淵魔の魔女ってそんなに強いの?
「言いたい放題言ってくれるじゃねぇか魔女……!」
話を聞いていたであろう魔縁が、ジェマの体を借りて出てくる。
そりゃあ怒るよね、魔縁の性格なら……というか、結構な割合の人が怒るんじゃないかな。
「本当のことを言ったまでですよ、ムラマサとやら。
何なら顕現出来るようにしますので、力比べでもやりますか?」
「てめぇ、なんで俺の真名を……」
「母上から聞いた特徴の刀でしたので。
その昔極東の国で暴れていた魔族を刀に封印したと聞いてます……ロジェスティラという名は知ってるでしょう?」
母上が知らない人の名前を言うと、魔縁の体がビクッと跳ねる。
「な、まさか……」
「そのまさかです、私はロジェスティラの娘。
そのロジェスティラは自身をアルダーの珠に変え私の力になりました、そして今は私もアルダーの珠……ロジェスティラの力が溶け合っている状態に私の実力もプラスされています。
それを聞いても力比べをやりますか?」
「……やめだ、敵わねぇのがそれを聞いてわかった。
暴れれねぇのは不服だがな、ジェマの稽古には付き合ってやってもいいぜ」
魔縁は肩を落としながらもジェマへの協力を自ら申し出てくれた、てっきり嫌がると思ったのに。
「ずいぶんその子の事に気をかけるんですね」
「気まぐれだ、気にするな。
稽古用の刀が手に入ったら顕現出来るようにしてくれ、それまで俺は稽古の内容でも考えてる――じゃあな」
「……ふぅ、出るなら出るって言ってほしいわ。
それよりありがとうございます、クレイグのお母様」
「気にしないでいいんですよ、それじゃあ私も一旦珠に戻りますね」
「あ、ちょっと待ってください!」
お母様が帰ろうとした途端、サラが慌てて母上を呼び止める。
他に何か疑問があるのだろうか?
「何でしょうか?」
母がサラのほうを向くと、サラは母にしか聞こえないように耳元で何かを聞いている。
母上の顔はみるみる笑顔になってるけど、一体何を聞いているんだろう?
「もちろん、安心してくださいね!
クレイグをよろしくお願いいたします!」
「わーっ、わーっ!」
サラが慌てて母上の口を塞ごうとしたが、言うだけ言って引っ込んでしまった母上。
何を聞いたか聞こうとしたが、サラは耳まで真っ赤になり顔を押さえながら「今日は冒険者としての活動は休みね!」と言いながら走り去ってしまった。
僕とジェマは顔を見合わせた後に首を傾げ、よくわからないまま休みを満喫することに。
デインホンについてからほとんど街を回ってないし、これからの拠点としてどこに何があるか今のうちに知っておいたほうがいいのは確か。
もしかしたら隠れたいいお店があるかもしれない、観光がてら街を出来るだけ隅々まで回ろうっと!
附与魔術師が気に入られなくて実家を追い出されたけど、どうやら強くなれるみたいです。 えふしょー @pomin0215
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。附与魔術師が気に入られなくて実家を追い出されたけど、どうやら強くなれるみたいです。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます