第23話 メイドの過去の話を聞いて、僕の過去も明らかになった
「まず私が淵魔の魔女と呼ばれだしたところから説明いたしましょうか。
とは言っても、前任の娘というだけなのですけれど」
メイドが自分の過去を話し始めると、ビアンカさんは一言一句逃さないという気概でメモを取り出している。
僕も興味があるし知らなきゃいけないだろうから、集中して聞いてるけどね。
サラとジェマも思いのほか食いつきがいい、滅多にない機会だろうし仕方ないかもしれないけど。
「母親が私を産み、修行の中で技術と知識を私に受け継いだ後に自身をアルダーの珠に変えて私の元を去りました。
これが私が自身を材料にアルダーの珠を生成する方法を知ってた理由ですね、淵魔の魔女は代々こうして更なる力を手に入れて淵魔の森を管理していたんです。
――まぁ、それも私の代で終わりだと思ったので多重断絶結界を張らせてもらったんですが」
「多重断絶結界……なんでしょうかそれは」
ビアンカさんでも聞いたことない結界なんだ、かなり特殊なものかオリジナルなのかな。
「断絶結界は外と中が一切混じらうことがないように張る結界です、それを20層張らせてもらっているので多重断絶結界と個人的に呼んでるんですよ」
なんかとんでもない結界をさらっと20層も張ってることをカミングアウトするメイド、とんでもない力を持ってるんだなぁ……そりゃ淵魔の森なんて明らかに危険そうなところの管理者だったんだし力があって当然か。
でも僕もメイドの息子なんだよね……少なからずその力があるってことなんだろうか?
「どうして淵魔の森の管理者を辞めてしまったのですか?
あそこは確かに危険な場所でしたがダンジョンもあったので上位冒険者には人気だったのですが……」
「単純なことですよ、クレイグ様の父に惚れたからです。
冒険者として訪れたあの方に一目惚れしてしまいました……ここからはクレイグ様にとって重要な話になりますね」
「そう……だよね」
僕のお父さんに一目惚れして淵魔の森を離れた、その気持ちは分からなくもない。
だがその人物が問題だ……冒険者として訪れたって言ったよね。
僕の父ザック・マクナルティ卿は冒険者ではない、過去も今もあの人は貴族だもの。
だからこそ僕はマクナルティ家に属していたわけで……じゃあ僕の父親は?
「クレイグ様、この話を聞いてお気づきになられたと思いますが……ザック様はあなたの本当の父親ではありません。
本当の父親は、孤児院でクレイグ様に短剣の使い方を指導されたゲイリーという方です」
「先生が僕の父親だって!?」
衝撃の事実を聞いて思わず叫んでしまう、でもそう考えるといろいろ腑に落ちることが多い。
マクナルティ家の生まれでありながら剣の適性が全くなかったこと、短剣を初めて触ったのに驚くほど手に馴染んだこと、そしてその技術が附与魔術師でありながらどんどん上達したこと。
だって先生は短剣使いの冒険者でSランクだった人だもん、魔術と短剣が使える僕の能力にも納得する。
でも一つ疑問があるんだよね。
「メイド、その話は信じるけどさ……どうして僕はマクナルティ家の子として産まれたの?」
そう、マクナルティ家の子でなければ僕は裕福じゃないかもしれないけど幸せに過ごせたと思う。
15歳まで2人に技術と知識を教えてもらいながら育てられて、違う未来があったんじゃないかと考えてしまうのは当然。
「それは……畏れ多いことにザック様が私を見初められたからでございます。
そして権力を使い私を家に置いたのですよ……せめてもの抵抗に結婚はしないという約束を結ばせてもらいましたが。
ですが私が好きだったのはゲイリーただ一人、密会を重ねて2人の子を身ごもったのを確信した後にザック様と体を交えて血縁を偽造したのです……許されない事だというのは分かっていましたが」
「そう、だったんだ……」
ショックだけど仕方がないような気もする、でもあの父上でも一人にそこまで執着することがあるんだ。
それが僕にはびっくりだ、いつも冷静で取り乱したところなんて見たことないから。
「そして2人目をつくるという話になり、それが嫌だった私は自身をアルダーの珠にしてクレイグ様と一緒にいることにしたのです。
ゲイリーも最初は止めましたが最後は了承してくれました、自分の女が取られるくらいなら、と……」
「僕って思ったより複雑な環境に産まれてたんだね、でも知って納得したよ」
「怒らないのですか……?」
メイド……いや、母上は僕の言葉を聞いて恐る恐る僕の顔色を窺う。
「事情が事情だし仕方ないと思うよ、打ち明けてくれただけで十分。
それに自分を犠牲に僕を守るなんて、それこそ親がしてくれることだと僕は思ってるから――親に愛されてるのが分かって嬉しいよ、母上」
「クレイグ様……!」
僕の言葉を聞いた母上はその場で泣き崩れる、よっぽと安心したし嬉しかったんだろう。
それを抱きしめれないのは残念だけれど側に寄り添ってあげるくらいは出来ると思い、母上の側に座ったその直後。
「よがっだでずよぉぉぉ……!」
号泣しながら僕に抱き着いてきた、思わず僕は母上を抱きしめる。
……あれ、霊体なのに触れることが出来てる!?
「え、なんで触れてるの!?」
僕が声を上げると、母上は涙を拭いながら返事をしてくれた。
「交霊の儀とやらの解析が終わったので改造させていただきました、霊体でありながら私は実体として顕現することが出来ます。
一種の不老不死ですね、実体が著しく傷ついたりアルダーの珠が壊れると消滅してしまいますが」
「そんなことが出来るんですか!?」
僕と母上の話を聞いてもらい泣きしていたビアンカさんが声を張り上げた、驚きのあまり涙は引っ込んだみたいだけど。
「魔術の改造は私の親に仕込まれた技術なので」
先代淵魔の魔女と母上、恐るべし。
それからはビアンカさんが母上に質問攻めを始めたので、少し落ち着くために最初に座っていた椅子で休憩することに。
椅子に座っているとサラもついてきてくれたので、2人で少しゆっくりすることにした。
ジェマはというと、母上の言葉を聞いた魔縁が「俺にもそれを施せ」と騒ぎ出したので動きを封じられお仕置きを受けている最中だ。
ジェマの体なのに。
どんまい、ジェマ。
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