第22話 メイドの正体が徐々に明らかになっていった

「メイドってどういうことよ、アルダーの珠になってしまった人はあなたの親族じゃないの!?」


「そうよ、私もメイドさんとは面識があるけど血が繋がってるなんて聞いてないわよ!?」


ビアンカさんとサラが同時に驚いて質問してくる、ジェマは何が何だか分からない様子でオロオロしてしまってるけど。


「僕だって知りたいよ、だからいろいろ聞かないといけないことがあると思う」

 

僕だって相当驚いてる……ただ、現実を受け入れきれてなくて冷静に見えるだけで。


メイドはというと、僕の言葉に従順に従ったものの気まずそうな表情を浮かべている……そりゃそうだよね、隠してたことがあるのがバレてしまったわけだし。


「ごめんなさいクレイグ君、あなたも聞きたいことがあると思うけどまずはこちらの質疑応答をさせてもらっていいかしら?」


「大丈夫ですよ」


ビアンカさんは僕の返事を聞いて真贋鑑定士を呼んでくると言ってこの場を離れた、メイドが嘘をついてないか確認するためだろう。


ホントは僕が先にメイドにいろいろ聞きたかったけど、アルダーの珠は世界的に秘匿されている禁忌みたいだし、それと僕の個人的な事情を天秤にかけると間違いなく前者が重要だもんね。


しばらくすると、ビアンカさんが受付の人を連れてきてメイドに質問を始めた。


「世界の決まりとコーネプロス国の法に基づいて、アルダーの珠の材料となったあなたに質問するわ。

 あなたは誰の手によってアルダーの珠にされたの?」


「私自身ですよ、クレイグ様はアルダーの珠について知らないと仰ったじゃないですか」


「自分で自分を材料にアルダーの珠を作ったってこと……そんなこと出来るはずが!」


「可能ですよ、紙とペンをご用意ください――そこに術式と方法を記しますので。

 あなたほどの実力と知識があるならそれを読んだだけで実践しなくてもわかるでしょうから」


「……わかったわ」


メイドはビアンカさんに紙とペンを持ってきてもらい何か難しそうなことを書き始める。


他のメイドとなんら変わりなかったメイドがこんな知識を持ってたなんて……そして本当にメイドは僕と血が繋がっているのだろうか。


「出来ましたよ、そこまで難しいことではないのがこれで分かると思います」


メイドはビアンカさんに先ほどまでペンを走らせていた髪を手渡す、それをビアンカさんは真剣な表情で読み始めた。


「嘘……確かにこれなら……でもこんな説は誰も説いていなかったし……。

 いや、それより――あなたどうやって自身の死という恐怖に打ち勝ったのよ!?」


「クレイグ様の側に居ながら守るためにはこの方法しかなかったので。

 そのためなら私はどんな境遇でも受け入れることが出来ますよ」


メイドの目を見る限り嘘はついてない……肌身離さずこのタリスマンを持っていてというのはこのことだったんだ。


自分はタリスマンについてる宝石になったから肌身離さず――せめて相談してくれたらほかの方法があったかもしれないのに!


「……どうかしら」


「この霊体は何一つ嘘をついていません、最初から今まで全てです」


「そう、ならこれは全て真実ということね。

 では次の質問に移るわ、あなたは一体何者なの?」


「クレイグ様から聞いているかと。

 私はマクナルティ家に仕えていたしがないメイドです」


ビアンカさんの質問にあっけらかんと答えるメイド、確かにそうなんだろうけど知りたいのはそこじゃないと思うんだよなぁ……。


「それは知ってるわ、私が知りたいのはあなたの経歴。

 調べた情報によるとクレイグ君の母親は賢者とも呼ばれたそうじゃない、そんな実力者は数えるほどしかいないし……何よりそんな人がメイドになるなんて考えられないのよ」


流石『連合』だなぁ、そんなことまで調べ上げてるなんて。


僕自身サラから聞くまで知らなかったのに……一体どうやってるんだろう?


「はぁ……相変わらず手の早いことですね。

 それよりビアンカさん、私に見覚えはないですか?」


「何を言ってるの?」


メイドは少し悪い笑顔を浮かべてビアンカさんに質問する、僕の知る限りメイドはコーネプロス国に赴いたことはないから初対面……と思ったが、僕はメイドの過去を知らない。


もしかしたら昔に面識があったのかもね。


「テヘンブルの東、コーネプロス国の最東端にある秘境――いえ、死地かしら。

 淵魔の森、今は謎の結界があって誰も入れず中からは誰も出てこれなくなってますよね?」


「どうしてあなたがそれを……」


「そこの管理者と呼ばれていた魔女、あなたは会ったことあるはずですけれど。

 少なくとも私の記憶には今より若いあなたの顔が残っていますよ?」


え、どういうこと?


僕はメイドの言葉を聞いて混乱している……それはビアンカさんも同じようで。


「え、嘘……私が尊敬するあの人が……でもよく見れば……そんな馬鹿な……」


ぶつぶつと何かをつぶやきながら頭を抱えているビアンカさん、ちょっと怖くて心配になる。


受付の人も「大丈夫ですか!?」とビアンカさんに駆け寄っている、そりゃそうだよね……かなり動揺してるみたいだし。


「はぁ……コーネプロス国に入られると決まった時点でクレイグ様にバレることは覚悟していましたが、まさかこんな形になるなんて。

 今まで隠していて申し訳ございませんでした、ですが私にも事情があるのを察していただけると幸いです」


「うん、それは分かってるし大丈夫だけど……ビアンカさんはいいの?」


「しばらくすれば落ち着くでしょう、その時にまたきちんとお話させていただきます 。

 それより……ジェマさん」


「は、はいっ!」


メイドに呼ばれたジェマは少し声が裏返りながら返事をする、そんな緊張しなくてもいいと思うんだけど……この雰囲気じゃ無理な注文かもしれない。


「勝手に引っ込んだ魔縁とやらを呼び戻したいので刀を置いてもらえませんか?

 殺しはしません、ちょっとお灸を据えるだけですので」


笑顔の奥に怒りを見せるメイド、これは僕にもわかるくらい怖い……メイドのあんな怖い笑顔を見たの初めてだし。


「ワカリマシタ」


ジェマは気圧されたのか変なイントネーションで返事をして刀を地面においてその場を去る。


魔縁、一体どうなるんだろう――とりあえず同情はしておくよ。



メイドが魔縁を呼び出して数分、魔縁はすっかり背中を丸くして刀の中へ還っていった。


力比べのようなことをしてたけどメイドには一切歯が立たず……あんな強いなんて思わなかったよ……。


「ごめんなさい、すっかり取り乱してしまって……!」


メイドも魔縁を〆終えてスッキリしていたら、正気に戻ったビアンカさんが言葉をかけてきた。


「大丈夫ですよ、気持ちと記憶の整理はつきましたか?」


「えぇ……何とか。

 あなたは本当に……淵魔の魔女様なんですね?」


「そう呼ばれてた時期もありましたが、今はマクナルティ家の元メイドですよ」


ビアンカさんの質問に、メイドは僕に見せてくれていたような笑顔で答える……メイドは過去に一体何を抱えているんだろうか。


「真贋鑑定士の言葉もありますので、それは全面的に信用します……ですが、どうしてあなたのような実力者が一貴族のメイドになんてなられたのですか!?」


最初の態度とは打って変わって、ビアンカさんはメイドに対して丁寧な言葉遣いをしている。


それだけ淵魔の魔女は実力があって頼りにされていたのだろう。


「そこまで深い理由はないのだけど……クレイグ様もこの場に居られますし私の過去をお話ししましょうか」


ビアンカさんの言葉にメイドがそう返事をする……これは僕が知りたいことでもあるのでいい提案だ。


メイドがどんな経緯でマクナルティ家に仕えたのか、淵魔の魔女と呼ばれるような実力はどうやってつけたのか……ちゃんと聞かせてもらうよ。

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