第21話 僕の持ってるタリスマンがとんでもないものだった

ビアンカさんに呼ばれたので3人のところへ向かう。


魔縁の表情が気になるけど無視するわけにもいかないし……ジェマはジェマでかなり気まずそうな表情。


ビアンカさんは……明るさの中に険しさがあるような微妙な表情に見える。


本当にどういう状況なんだろう、少し怖い。


「クレイグ君、魔縁から聞いたけど……アルダーの珠を持ってるって本当かしら?」


「なんですかそれ?」


ビアンカさんから質問されたけど、アルダーの珠が何かわからず聞き返してしまう。


そんなもの聞いた覚えは無いし持ってもいない……珠っていうくらいだから丸い宝石のようなものなんだろうけど。


「とぼけるんじゃねぇぞ、つけているタリスマンの宝石がそれだ」


「これのこと?」


魔縁から指摘されて、首から下げているタリスマンを見せる。


マクナルティ家を追い出された後にメイドが送ってくれたものだから、僕にとっては特別だけどアルダーの珠なんて大層な名前の宝石なんてついてるとは思えない。


確かにこの宝石は綺麗だけどね。


「クレイグ君、ここからの質問は包み隠さず正直に答えて――秘匿したいことは可能な限りそうするから。

 それと、ここからは会話の記録を取らせてもらうわよ。

 そのタリスマンについてる宝石は間違いなくアルダーの珠、それをどこで手に入れたの?」


ビアンカさんの表情から笑顔が消えた……それだけアルダーの珠の所持は重大な問題なのだろう。


僕は過去も含めてビアンカさんにすべてを話すことを決意、それで疑いが晴れるのなら安いものだ。


コーネプロスではしばらく腰を据えて活動したいからね、気持ちよく過ごしたいし。




「なるほどね、事情は分かったわ」


僕は過去から今までのことをビアンカさんに説明、もちろんこのタリスマンをどうやって手に入れたかということも。


「ところで、アルダーの珠って何なんですか?」


ビアンカさんの質問に答えたので、今度は僕からビアンカさんに質問をする。


そもそもアルダーの珠が何か分からない、魔縁の表情と態度から推察した限りでは僕が持ってて得をするようなものじゃないけれど……それでもメイドからの贈り物だから手放したくはない。


もし持ってて危険なら『連合』で保管庫を借りて保管しておくけど、出来ることなら肌身離さず持っておきたいのが本心だ。


「アルダーの珠は人間を材料にして自身の能力を底上げする禁忌の宝玉よ。

 それも扱えるのはその材料になった血筋の人間だけ、そして存在を認知している者は本当に少ない世界最高機密の物質――それがアルダーの珠」


「えっ……」


とんでもない事実を知らされて言葉を失う、人間が材料って……それにその材料になった血筋の人間しか使えないってどういう事……?


「アルダーの珠の存在が分かった以上、『連合』デインホン支部の長でありコーネプロス国最高位魔術師として交霊の儀を執り行うわ。

 といっても、魔縁にしたものと同じことをそのアルダーの珠にするんだけどね――そこで出てきた霊体に質疑応答をさせてもらうわよ。

 もしクレイグ君の話に噓偽りがあったり、親族を無理やりアルダーの珠に変換させていたら……この場で極刑とさせてもらうからね」


「極刑って……そんな!」


ビアンカさんの言葉を聞いたサラが青ざめた顔で言葉を挟む、僕としては噓をついてないから心配してないけど……僕の知ってる限り血の繋がった人達は生きているんだよね。


一体メイドはどうやってこのアルダーの珠を手に入れたんだろう。


「それくらい禁忌なのよ、アルダーの珠は。

 それじゃ早速交霊の儀を始めるわ……クレイグ君、アルダーの珠をその魔法陣の中心に――抵抗したらその場で処刑するわよ」


「わかりました」


僕はすぐさま返事をしてアルダーの珠を魔法陣の中心に置く、ビアンカさんはそれを確認するとすぐさま魔術の詠唱を始めた。


最初に出会ったころの飄々としたビアンカさんはここには居ない。


居るのは自身の責任の下で厳格に取り調べをするデインホン支部長だ。


「クレイグ、大丈夫なの!?」


小声ながらも慌てた様子のサラ、僕は「大丈夫だよ、アルダーの珠の存在なんて今まで知らなかったんだから」と伝えて落ち着かせた。


そう、僕は本当に知らなかったんだ。


知っていたのは……そう、誰でもないマクナルティ家で僕に仕えてくれていたメイド。


あのタリスマンを渡してくれて以来顔を見せてくれなくなったけど、元気にしているだろうか。


今はいろいろ聞きたいことが山ほどあるのに。


「ちょ、やめてください!」


メイドとの思い出や今の心境に思いをはせているとメイドの嫌がる声が聞こえてくる。


イメージだけで声が聞こえてくるなんて、よっぽど僕の中で大事な存在なんだなぁ。


「やめてくださいって、なんであなたこれに抵抗出来るのよ!?」


今度はビアンカさんの慌てた声、一体どうしたのだろう。


「あなたより実力があるからに決まってるじゃないですか……って力を強めないでください!

 いーやーでーす、クレイグ様にこんな姿お見せできるわけないでしょう!」


「そんなこと言っても声は聞こえてるんだからもう遅いわよ!」


ん?


メイドの声がビアンカさんと会話してる……?


「えぇぇ、これあなただけに聞こえてるんじゃないんですか!?」


「そんなわけないじゃない、なんでアルダーの珠の存在を知ってて交霊の儀を知らないのよ……」


間違いない、メイドの声だ……ということは、アルダーの珠の材料になったのはメイドなの!?


「あの、ちょっといいですか?」


「ちょっと待って、交霊の儀で抵抗されるのなんて初めてだから……!」


「多分解決出来ると思います――メイド、抵抗をやめて素直に出てきて」


僕がそう言うと、ビアンカさんを含めた全員が「えっ」と小さく声をあげる。


まさかの事実にびっくりしているんだろう、僕だってびっくりしているけどね。


だって、アルダーの珠の情報が事実なら僕とメイドは血が繋がっているっていうことなんだから。


「クレイグ様、承知いたしました」


メイドは僕の言葉に返事をすると、魔縁と同じように魔法陣の中心へ姿を現す。


そこには昔と変わらないメイドの姿、本当にメイドだったんだね。


これはビアンカさんだけじゃなく僕も山ほど聞くことがあるぞ――さて、まずは何から聞こうか。

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