第20話 魔縁が現実に顕現した

「それじゃ早速始めましょうか」


現在デインホン支部の修練場、ジェマが持つ妖刀に憑いている魔縁をビアンカさんが顕現させるという事で集まっている。


「あの、大丈夫でしょうか?

 魔縁は味方してくれていますが、人類全員の味方というわけじゃなさそうなんですけど……」


ジェマが恐る恐るビアンカさんに質問する。


それもそうだよね、以前の対話で波長が合ってるから味方しているといだけで、魔族として存在していれば過激派に属しているだろうって本人も言ってたし。


そんな危険な存在を顕現させるだなんて、誰だって危険だと思う。


「大丈夫よ、いざとなれば私が抑え込むし」


ビアンカさんは手をひらひらさせながら軽そうに返事をする、本当に大丈夫なんだろうか……。


「いくわよー、それっ」


魔縁が置かれている修練場の中心に展開された魔法陣に、ビアンカさんが魔力を注ぎ込む。


すると魔法陣が輝き出し、その光が中心にある魔縁に集まり始めた――来るっ!


そう思った瞬間、魔縁から人型の影が浮かび上がる……あれが魔縁の本来の姿なのかな?


角や肌に模様があるけど、それ以外は人間そのものだ。


もっと禍々しい姿をしてると思ったけどそうじゃないんだなぁ、でもサラの見た目も人間だしこれが普通なのかもしれない。


「奇妙な魔術を使いやがって……霊体なら実体に干渉出来ねぇとでも思ったのか?」


魔縁はそう呟くとビアンカさんに向かって魔力の塊を投げつける――でも、ビアンカさんはそれを軽く往なした。


「そんなの百も承知よ、どんな魔族がこの刀に憑りついているか気になっただけ。

 でも姿を見て安心したわ、あんたは過去に討伐歴のある魔族……私の敵じゃないわよ」


そう言ったビアンカさんの両手には、とても人の力とは思えない魔力が練られている……あれを食らったら一溜まりも無いのは僕にでも分かるくらいに。


「ちっ、学者様は大人しく研究でもしてりゃいいものを……」


「研究者だからこそこうしてるのよ、討伐歴が無い魔族ならともかくそうじゃない魔族がこうして武器に憑いてるんですもの。

 ジェマちゃんを介して話せるのかもしれないけど、直接口を聞けるならそのほうが信憑性は増すでしょ?」


顕現した矢先に暴れ出すかと思いきや大人しい魔縁、それだけビアンカさんの力が脅威なのだろう。


「あの、冒険者ギルドは魔族を敵と見なしているのですか?」


そう恐る恐る聞いたのはサラ――それもそうだろう、自身が魔族と人間のハーフなんだから。


「そうじゃないわよ、穏便派の魔族が人間に溶け込んで生活しているのは知識がある者としては常識だし。

 ただ、あの武器に憑いてる魔族の気配がそうじゃなさそうだったからこうして話す機会を作ったの、過去の歴史を当の本人から聞けるなんてそうない機会だからね」


ビアンカさんの返事を聞いたサラはほっとした表情をして胸をなでおろす、それを聞いた僕も一安心。


「特別言う事なんてねぇよ、極東の国で暴れてた俺は徒党を組んだ人間に封印された……それだけだ」


魔縁はバツが悪そうな表情でその場に座りぽつりと呟く、過去の失態を語るのは恥ずかしいのだろう。


「私は彼と話すけど、ジェマちゃんはどうする?」


「立ち会っていいんですか?」


「もちろんよ、今はあなたのパートナーみたいなものなんだから。

 クレイグ君とサラちゃんは少し待っててもらえる?」


「わかりました」


「はい」


本当は僕も話を聞きたかったけど、魔縁も聞かれたくない事があるだろうし仕方ないか。


孤児院では書物を読み漁ってたから、歴史とか結構好きなんだよね。


「クレイグ、あっちの椅子で座って待ってましょ」


「あ、うん」


サラは僕の手を引っ張って少し離れた場所に見える椅子に向かう、恐らく修練の際に指導者が座っている椅子なのだろう。


だってちょっと豪華だし。




ジェマ・魔縁・ビアンカさんが話をし始めて数十分。


「長いわねー、何を話してるのかしら?」


「ビアンカさんが色々質問してるんじゃないかな、すっごいメモ取ってるのが見えるし」


「魔縁はたじたじだけどね、ビアンカさんに敵わないのが分かってから反抗的になってないみたいだから」


サラはニヤニヤしながら魔縁の表情をじっと見ている、僕もそれを見ていると顕現した時とは表情が違う事に気付いた。


ビアンカさんの魔術、すごかったからなぁ……多分魔力を練り固めた物をぶつけて魔縁の攻撃を往なしたんだろうし。


魔術ではない、ただの力業……だからこそ魔縁も実力差をすぐに察せたのだろう。


研究者とは思えない実力者だ、流石はデインホン支部の支部長。


僕もいつかあれくらい――いや、附与魔術師だしそれは無理だろうなぁ。


「何暗い顔してるのよ?」


「ううん、ビアンカさんすごいなぁって」


それを聞いたサラは鳩が豆鉄砲を食ったような顔で僕の顔を覗き込む。


「クレイグだってすごいじゃない、補助魔術に短剣の扱い――それに補助・附与:自由なんて聞いたことないものまで使えて。

 だからこそ私達はあのダンジョンを第7層まで軽々と攻略出来たんだから、誇っていいわよ」


「そうかな?」


「そうよ、ビアンカさんはどう見ても攻撃魔術を得意とする人だし、両手の紋章だって完成してた。

 そこに差があるのは当然、補助魔術ならクレイグは世界でも有数の実力者だって信じてるわ!」


サラの前向きな意見に励まされる、仲間がそう思ってくれているなら僕も少しは自信を持っていいかな?


「お待たせー!

 クレイグ君とサラちゃん、こっちに来てー!」


サラと話している最中、ビアンカさんが僕たちを呼ぶ声が聞こえてきた。


「呼ばれてるわ、行きましょっか」


「そうだね」


僕とサラは立ち上がり3人が居る場所へ向かう……3人?


話が終わったから刀に戻ってると思ったのに、どういう事だろう。


すごいニヤニヤしているけど……何か嫌な予感がする。

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