第19話 ダンジョンから脱出、そしてデインホン支部へ報告

何時間眠っただろうか。


初のダンジョン探索と触手の魔物との戦闘で疲れ果て、戦闘を終えて眠ってしまっていた。


寒さで目が覚めたのであたりを見回すと、サラの魔族の力が覚醒した時に放った魔術で未だ氷に包まれている。


「結構な時間が経ったと思うんだけど……改めてすごい威力だったなぁ。

 巻き込まれなくてよかったよ、ほんと」


もう少し眠りたい気持ちはあるけど、こんな寒いダンジョンで休んでも疲れは取れないだろうし……2人を起こして脱出しなきゃ。


帰りは常時自由フリーダムで気配遮断を付与してサクっと脱出、2人はまだフラフラだったので余計な戦闘は避けるべきだと判断した。


そして町に戻って『連合』支部――ではなく宿屋へ。


お風呂に入って温かい布団で泥のように眠らせてもらうことに、あぁ気持ちいい――。




「お客様……大丈夫ですかぁ……?」


「うぅ……ん……?」


聞きなれない声が聞こえてきて目を覚ます、体を起こして目をこすりながら声がした方向へ視線をやると、そこには不安そうな顔をした宿の店員さんが立っていた。


「良かった、生きてたんですね――あっ、勝手に入って声をかけてしまい申し訳ございません!

 なにせ3日もお部屋から出て来ず返事も無かったもので……まさかと思い確認させていただきました」


店員さんは深々と頭を下げて謝罪する、それより3日も経ってるって!?


その事実に驚いた、そんなに眠ってしまってたとは思わなかったよ。


それよりサラとジェマは目を覚ましているんだろうか、もしまだたったら確認しにいかないと。


「他の部屋に泊まっている連れは目を覚ましてましたか?」


「まだ確認しておりませんが、お客様と同じくお返事が返ってきておりませんので恐らく寝ていらっしゃるかと。

 それより無事を確認出来ましたので、私はこれで失礼いたします」


店員さんは再び一礼して部屋を去っていった、そりゃ死んだような顔で宿を借りてそのまま3日音沙汰無しじゃ心配するよね……迷惑かけちゃったなぁ。


疲れも大分取れたし頭もスッキリしてきた、お腹も空いてきたし2人を起こして久々の食事を取って今後の事を話し合わなきゃね。




あれから2人を起こして宿で朝食を取り、部屋に戻って話し合いをした。


1つめは、『連合』支部に行って1層から7層までの魔物から採取したものを提出して買い取ってもらう。


これには賛成。


2つ目は、可能ならAランクと同等の扱いを受けれるよう証明書のようなものが発行出来ないか頼んでみるというもの。


危険な依頼を受けることになるかもしれないけど、上位ランクは実入りのいい仕事が多いし何事も挑戦……という事で、不安だけどこれにも賛成。


3つ目はダンジョンの8層以降への挑戦。


これはサラの提案だけど、僕が即座に反対。


ジェマもかなり渋っている様子だ、そりゃSランクで撤退しているところだもんね……そうなるよ。


サラは7層の調子を見る限り余裕じゃないかって言ってるけど、こればっかりはもっと力を付けてからでもいいと思う。


そんなに急がなくったってダンジョンは逃げないし。


2人からの反対意見にサラが折れる、ちょっとふくれっ面になってるけど我慢してもらわなきゃ。


それじゃ採取したものの提出とAランク相当の証明書をもらいに『連合』支部に向かおう。




「ちょっと奥の部屋まで来てください!」


『連合』支部で受付の人に1層から7層の魔物から採取した物を提出すると、物凄い驚いた顔をしてそれを確認した直後、3人揃って奥の部屋へ連れて行かれた。


周りもざわついてたし少し恥ずかしい、変な事にならなければいいけど。


僕らを部屋に通すと、受付の人は「ここで待っててください」と伝えてどこかへ行ってしまった。


「大騒ぎになりそうね……」


「いいんじゃないかしら、悪い事してないし」


不安そうなジェマと余裕そうなサラ、僕はジェマ寄りの心境なのでサラの胆力が少し羨ましいよ。


段階を踏んで提出しても良かったかもしれない、変な疑いを掛けられなければいいけど……。


しばらく待っていると部屋のドアが開き、受付の人と知らない女性が一人。


「デインホン支部の支部長をしているビアンカよ、よろしく」


「僕はクレイグです、ランクCの冒険者です」


「私はジェマ、ランクDの冒険者よ」


「私はサラよ、ランクはまだEだけど……」


それを聞いた受付の人は「嘘でしょ!?」と大きな声をあげる、まぁAランク以上じゃないと厳しいと言われる4層以降に生息している魔物の採取品があるから仕方ないんだろうけど。


「黙ってなさい、と言いたいけど驚くのも無理ないわね。

 これは間違いなく7層の魔物のものだし……これらを他の冒険者から奪ったという可能性も無くはないけどランクA以上がランクC程度に負けるなんて考えれないわ。

 限りなく嘘っぽいけど嘘じゃない、より詳しく理解するためにあなた達の事を聞かせてもらえるかしら」


僕はビアンカさんの言う通りに経緯を説明、僕やサラの出自は黙っててもいいよね。


グラインハイド帝国の元貴族がここに居るなんて言いづらいし、サラなんて『教団』の枢機卿の娘で魔族なんてもっと言えないから。


「どうかしら?」


話し終えると、ビアンカさんが受付の人に目配せして何かを確認した。


一体何だろう。


「――隠してることはありますが嘘はついてませんね。

 本当に3人でグラインハイド帝国からコーネプロスに入国し、このランクであのダンジョンを7層まで踏破しています」


「そう、ありがとう。

冒険者だし話せない事もあるでしょうね、そこは至極当然だわ。

あなた達の経緯は真贋鑑定士の証言から信用します、それよりあなた達の実力がどうしてそこまであるのか説明をして――私が一番知りたいのはそこよ」


真贋鑑定士、それは物だけでなく人の嘘まで見抜けるスキルを持つ稀有な存在。


まさかデインホン支部の受付の人がそうだったなんて、もしかしたら支部には絶対配属されているものなのだろうか。


それより実力の説明って……それに関しては僕も説明が欲しいくらいなんだけどなぁ。


「クレイグと私は実力者同士の子どもでして。

先日『教団』からの研究発表があったように、神の天啓で珍しい適性を授かっているが故の実力です――私は恢復術師ということもあってまだ紋章は10画程度ですが、クレイグは右手の紋章は完成し、左手にも紋章が浮かんでます」


「何ですって、見せてもらえるかしら」


サラが話したということは、これに関しては見せても問題無いという事なのかな。


親を聞かれるかもしれないけど黙っておけばいいか。


「どうぞ」


僕は手袋を外しビアンカさんに手の甲を見せる、それを見たビアンカさんは食い入るように僕の両手に浮かぶ紋章を凝視し始めた。


「まさかこんな珍しい事例をビアンカ様以外に目にするなんて……」


「ビアンカさんも紋章が2つあるんですか?」


話しかけてみるが返事が無い、声が聞こえないくらい集中しているんだろう。


そしてビアンカさんは自分の紋章と僕の紋章を見比べ始める、そこで2つの紋章があることを確認することが出来たので返事は無くてもよくなった。


「ごめんなさいね、食い入るように見ちゃって。

 それよりこれで2人の実力について説明は付くわ……後はジェマさん、貴女もそうなの?」


「いえ、私は刀という武器を扱う事を得意とする剣客です――グラインハイド帝国では珍しいですが2人のように特別というわけではありません。

 私が扱う刀がいわゆる妖刀と呼ばれるもので、私と波長が合い中に封印されている魔族から力を借りて戦っているんですよ」


「2人に劣らず珍しい事があるわね、その妖刀を見せてもらっても?」


「えぇ、どうぞ」


サラは腰に差していた魔縁をビアンカさんに渡す、それを抜いたビアンカさんは僕の紋章を見た時と同じ表情で色々調べ始めた。


「申し訳ございません、ビアンカさんも研究者の一人でして……」


「構いませんよ、見ていれば分かりますので」


受付の人が申し訳なさそうに僕達へ謝る、気にしなくてもいいのに。


それに調べられるのは嫌じゃないし、疑われるより理解しようとしてくれるほうが幾分気は楽だからね。


「キアラ、今から裏の修練場を解放するよう伝えて。

 利用者が居れば私が明け渡してくれとの命令って言っていいから」


「分かりました」


受付の人はキアラさんというらしい、今初めて名前を知れたよ。


それより。


「修練場で何をするんですか?」


「この刀に封印されてる魔族を霊体で顕現させてみようかと思うの」


「「「えぇぇ!?」」」


僕達は同時に驚きの声をあげてしまった、そんな事出来るの!?

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