第18話 触手の魔物との戦闘、決着

「はぁぁぁぁぁっ!」


補助魔術と再生を掛けてもらったジェマは、触手の魔物を見るや否やすぐに攻勢に転じた。


いくら速攻を掛けると言っても単身突っ込むのは危険すぎるよ!


僕も応戦しないと……あいつの動きが一番分かってるのは僕だし、ジェマの動きに合わせて上手く立ち回ろう。


そう思い僕も触手の魔物に近づいて攻撃を繰り出す、魔法剣を付与したおかげで悩みだったリーチの短さが補われたのはすごく大きい。


それにジェマの狙い通り、粘液が凍って触手の魔物の攻撃も動きも制限出来てる……勝てるぞ!


「あっはっは、2人の補助魔術があれば誰にも負ける気がしないわ!

 気持ち悪い魔物め、さっさとくたばりなさい!」


ジェマはハイになっているのか少し乱暴な言葉づかいになっている、女の子としてどうかと思うのでこの戦いが終われば注意しないと。


なんて事を気にしてる場合じゃない、ちゃんとジェマが攻撃に集中できるように上手くこいつの気を引かないと!




戦闘開始から15分は経っただろうか、魔物は確かに弱ってはいるんだけど……倒せるような手ごたえはない。


「はぁっ……はぁっ……思ったよりタフじゃない……!」


補助魔術で強化されているとは言っても常時全開で戦っているジェマの負担が大きそう、僕は大丈夫だけど……早く倒さないとジェマが持たなさそうだ。


動きも強さも前に戦ったやつと一緒だけど、ジェマの言っている通りタフさが桁違い。


何かからくりがあるのだろうか、前の奴は僕一人で倒せたのに……ジェマが居るから倍以上のダメージを与えてるはずだけどここまでやって倒せないのはおかしい気がする。


「クレイグ、魔力は大丈夫!?」


「僕は大丈夫、それよりジェマが……!」


「大丈夫、ちょっときついけど魔縁と交代するから……!」


そう言った途端、ジェマの動きが段違いに良くなり攻撃を続行――魔縁と交代したみたいだ。


「はっはぁ!

 こいつぁ俺が生きてる間に試作されてた生命吸収に特化した悪趣味な魔物だ、ここまで成長してたら一気にダメージを与えるしかねぇぞ……お前も全力で攻撃に回れ!

 ジェマの体は心配するな、こいつを倒せるまでは持たせてやる!」


「っ……わかった!」


魔縁のアドバイス通り、ジェマのサポートでは無く触手の魔物を倒すよう全力で攻撃に転じる……ジェマの体を持たせるって言ってたけど、少しは気にしておかないと。


「2人とも、回復は大丈夫なの!?」


「大丈夫だ、大した傷じゃねぇし再生で間に合ってる!

 てめぇは意識を集中させてろ、もう少しで覚醒するだろ!」


「流石元魔族ね……多分もう少しだから頑張って!」


サラと魔縁が戦闘をしながら意味深な会話を交わす、サラの覚醒って……魔族としての力か何かだろうか?


でもそれより前に倒せればサラに無茶をさせずに済む、サラは恢復術師で後衛なんだから。


「ちっ、こいつ結構な生命を吸ってやがるな……クレイグ、もっと補助魔術を掛けれねぇのか!?」


「もう限界まで掛けてるよ、これが精一杯――いや……継続傷痍がある、すぐに掛けるよ!」


「出し惜しみすんな、死にたくねぇなら全開で付与しろ!」


速度上昇や筋力強化に気を取られていたけど、継続傷痍は名前から分かるようにダメージを強化出来るはず……少し前に検証せずにここまで来たから忘れてたよ。


附与魔術師として失格だ、自分が出来ることを忘れてるなんて……!


魔縁の言う通り掛けれるだけ僕と魔縁に継続傷痍を付与する、手ごたえから感じるにこれも五重まで掛けれるみたいだ。


これであいつを倒せるようになればいいんだけど……!




継続傷痍を掛けてから10分程経過、明らかに触手の魔物は弱ってきはじめた。


魔縁も手ごたえを感じているのか、物凄い悪い笑顔で飛び掛かってくる触手を切り刻んでいる……敵じゃなくて良かったと思うくらいには怖い。


僕もその手ごたえは感じているので、一気に畳みかけようと魔物の懐に飛び掛かり攻撃を加える――くたばれぇ!


そう思った矢先、後ろからサラの苦しそうな声が聞こえて来た。


「2人とも……そいつから離れて……っ!」


「サラ、どうしたの!?」


「いいからっ……!」


そうは言っても明らかに苦しそうで大丈夫じゃない、早く決着をつけないと――そう思っていた矢先。


「馬鹿野郎、早く離れろ!」


魔縁がそう叫びながら僕を抱え触手の魔物から勢いよく離れる。


「サラが苦しそうだから……早くあいつを倒さないと!」


「魔族の力の覚醒が始まるんだよ、巻き込まれて死ぬぞ!」


「えっ?」


さっき言ってた覚醒の事だろうか、でも巻き込まれて死ぬってどういう事……?


――その疑問は次の瞬間消え去った。


「行くわよ……<魔氷>!」


サラが最初の洞窟でゴブリンに放った魔術を叫び、その直後サラの前方全てが凍り付いた。


壁も天井も床も、岩さえも関係ない……全てが凍結。


もちろん触手の魔物も例外では無く、厚い氷に包まれて動きが停止――声も一切聞こえなくなったので生命活動が停止したのだろう。


「嘘……でしょ……?」


僕はまさかの状況に固まってしまう、前に見た時より威力が段違いだ……。


「ふぅっ……何とか無事に覚醒出来たわね……」


サラの声にはっとして視線をサラに向けると、膝をついて肩で息をしながら苦しそうにしていた。


「サラ、大丈夫!?」


「うん、大丈夫……それより魔縁に感謝してね。

 もう我慢が出来なかったから、もう少し離れるのが遅れてたら2人とも巻き込んじゃってたわよ……」


「ったく、心配なのは分かるが仲間の声は聞いてやれ。

 こいつの言う通りもう少し遅れてたら、マジで命を落としてたぞ?」


「ごめん……それと、ありがとう。

 それより、あの<魔氷>の威力が魔族の本当の力なの?」


サラがしんどそうだが、どうしても気になってしまい質問してしまう。


「いや、あの威力を常時出すのは無理よ。

 魔族の力が覚醒する時は、自分が持っている全ての魔力を魔術に乗せて放出するの。

 そして数日かけて魔力を溜め直し安定させる、そうすることで貯め込んでいる魔力の不純物を無くし、より強い魔力を扱えるようにするんだって。

 普通の魔族なら子どもの頃に済ませるんだけど、私は混血だから今まで出来てなかっただけ」


サラが息を整えながら僕の質問に答えてくれた、全ての魔力が無くなってるなんてしんどいに決まってる。


今まで体の中にあって当然の物が無くなるんだから。


「はぁっ……はぁっ……魔縁ったら相当無茶してくれたわね……。

 クレイグとの模擬戦闘以上の消耗じゃない……」


「ジェマも大丈夫、そうじゃないよね。

 今日はここでゆっくり休んでから地上を目指そう、幸い他の魔物の気配はないし」


「そうね、そうしましょうか。

 クレイグ、出来たらでいいんだけど気配遮断の付与魔術を補助・附与:自由フリーダムで使えない?

 念のためそうしておけば安心だろうし」


「分かった、やってみる」


ジェマに提案されて早速気配遮断が付与出来ないか試してみる。


あ、出来そう。


それを2人に伝えると、倒れ込むように2人は眠ってしまった。


気配遮断をしておけば大丈夫だよね……僕も少し休ませてもらおうっと……ぐぅ。

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