第2話 そりゃそうですよね

付き合って1か月、紬が心待ちにしている事があった。


【kiss】だ。


そんな風にどんどん欲が出て来て怖い反面、恋人同士であることを、確認しておきたかった。


そんな事を毎日、樹の隣で、手を繋いで、歩く毎日…。

そんなある日、とうとう、その日はやって来…た…。


その日、教室で日直だった紬が、日誌を書いてると、教室のドアが開き、そこに居たのは樹だった。


教室の扉から、一歩一歩、ちょっとづつ、ちょっとづつ、近づいてくる樹。

胸のドキドキが止まらない紬。


樹が、紬をギュっと抱き締めると――…、


突然教室の窓が割れ、大きな風が吹いて、それが、トルネードのように、学校ごとぶっ壊してしまった……。

…しまっ…た?


我に返ると、そこに居たのは、紬ただ一人。

しかも切ったはずのショートカットがまたロングヘア―戻っていた…。


そして、窓から視線を机に移すと、その机の上に、小さな女の子がいた。

可愛らしい、笑みで。

紬は、軽く悲鳴を上げそうになった。

びっくりしたのだ。

余りの唐突な出来事に。


そして、その女の子が、


『夢恋』


「それは、そのまんま。夢の中だけの恋物語だよ」


「…『夢恋』夢だけの…恋…」


「それでも、少しは良い夢、見られたでしょ?ふふっ」

悪戯に、意地悪な笑顔を携え、プチキューピットは消えていった。




そこに、夢ではなく、本物の樹が教室に入って来た。

「おー酒井、まだ残ってたのかよ。あー、日直か。まぁ頑張れー」

と去っていく樹の背中に精一杯の覚悟で、紬は叫んだ。


「樹は!!…ショ…ショートカット好き?」

「あ?何で?」

「あ…いや、ちょっと…」

「んー、嫌いでもないけど、別にこだわらん!じゃあな」



『酒井、ショートカットすっごく似合ってる!!』


「まだその辺にいる?」

紬はどうやらあの小さな妖精を呼んだ。

「クスクス…なあに?」


「樹が…瞳を輝かせて、褒めてくれた事…、あれも全部…夢なんだよね?」

「そうよ♡」


「『夢恋』かぁ…そりゃそうですよね…」

余りのあっけなさに、涙すら出ない。

色々な事が起こり続けると、人間はそれが大きな出来事であればあるほど、ふと、目が醒めると―…、



意外と、冷静なのかも知れない…。


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夢恋(むれん) @m-amiya

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