蟲なんとかが好きな人なら読むと良いと思います。
終始、主人公の思考は落ち着いているので、
それにあわせ、ゆったり流れる時間、
静かな情景が浮かびました。
峠の道の端、
しゃがみこんだ少年がじっと見詰めるその先には、
黒々と口を開ける洞がある。
村の言い伝え、その奥にあると言われる鏡には、
何が映るのか、映してしまうのか。
助かる為にはそう、
手で、自身の目を覆って見て下さい。
その状態で、指の隙間から下を覗いて見て下さい。
ですが、こうも考えて下さい。
そこに巨大な山が二つあったとします。
あなたの視線は地に届きますか?
つまりそう言う事です(意味不
洞窟の奥にあるという、異界と繋がっているとされる鏡にまつわるお話。
時代もののホラー、あるいはファンタジー掌編です。
何がいいってもう雰囲気が最高。物語全体に漂う、硬質で硬派な手触りがとても魅力的で、作品の世界にぐいぐい引き込まれました。
文章も好き。綺麗で読みやすく、物語を邪魔するような余計な力みがなくて、とにかく読み心地が良いのが最高でした。
ちょっと具体的に触れられないのが残念なんですけど(たぶんネタバレになっちゃうので)、個人的には主人公が大好きです。
あまりどういう人物かは語られない、言うなれば「たまたま事件に関わっただけの部外者」のような立ち位置の人物、だと思うのですけれど。
しかしこうしていざ読み終えたときに、とても強烈な個性をもって心に食い込んでくるのが本当にすごい。
それも、キャラクターの個性だけでなく、物語の構造そのものが主人公の魅力を補強している感のあるところ。
この感覚は実際に本編を読んでいただければわかるはず。
ただの設定や属性でなく、「このお話を読んだ」という体験を通じて人物を好きになれる、大変素敵な作品でした。