じっとりと薄暗くべとついた手触り

 恋人を追い詰めて自分を殴らせる男と、その知人のような嘘つきの男が、お店でお酒を酌み交わすお話。

 現代もののボーイズラブです。
 なんかもうものすごい湿度というか、物語のねっとりした手触りが途轍もない。
 とにかく濃厚で、飲み下すのに苦労するほどの読み出があって、読み終える頃にはちょっとフラフラになっていました。
 何かこう、物語に溺れそうになるような感覚。

 あらすじ的に紹介するのがとても難しいというか、私の説明力では「松永さんって人とお酒飲む」くらいしか言いようがないのがとても悔しい……!
 さまざまな要素が断片的に、でも確かに絡まり合う形で物語の中に存在していて、でも客観的な出来事ベースで要約しようとすると、どうしてもそのほとんどを取りこぼすことになってしまう(ために説明ができない)、という印象の作品です。

 要はどこまで行っても『主人公そのもの』を描いた物語で、読むにつれ詳らかになる、「彼という人間の輪郭そのもの」に途轍もない魅力を感じました。

 もう説明が難しいので、直接作品本編を読んでみてください。
 何か濃厚なえぐみのようなものがたまらない作品でした。