天才画家と完璧少女

春海レイ

天才画家と完璧少女


生まれた時から私は何でもできた。

絵を描けばコンクールで入賞したし、歌を歌えばみんなを魅了した。テストではいつも満点だった。スポーツだって誰よりもできた。

顔も良かったし、胸もでかい、身体もモデル級だった。

みんなが私を褒めてくれた。みんなが私を讃えてくれた。

嬉しかった。だから頑張った。頑張って頑張って頑張り続けた。だけど

「彼方さんに私の気持ちはわからないよ」


「あなたは完璧だからね…」


「あ、ごめん彼方さん…彼方さんにはそんな時間ないよね」


「彼方、貴方は完璧な人間なの、だから全てを本気でやりなさい…休んだら殴ってでも再開させますからね」


「彼方、私は期待してるよ」


そして気づけば、私の周りには誰もいなくなっていた。


でも私は頑張った。そしたらみんなが褒めてくれると思ったから、みんなが振り向いてくれると思ったから、塾にも行ったし、運動もした。

お金を稼ぐためにアイドルも始めた。だけど


「彼方ってなんか完璧すぎるよな」


「な、応援する気にならないっていうか」


「なんか怖いよな」


そんな事を書き込まれるようになって、親からの期待も大きくなって。


だから私は少し疲れてしまったんだろう。

共通テストの模擬試験で私は初めてミスをした。

たった一問だけだけど、間違えてしまった。

だけど私はそれをみて期待してしまった。

親が心配してくれるんじゃないかと、私に初めて期待以外の感情をむけてくれるんじゃないかと、だけど

「どうしてミスしたの!これくらい貴方だったらミスしなかったはずよ!」

帰ってきたのは罵声だった。


私は完璧だから知っていた。この親がいわゆる毒親と言われる人達である事も、私にはこの親以外に関われる人がもういない事も

私がもう壊れてしまったことも


だから私は家を飛び出した。ただ褒めて欲しくて、でも褒めてくれる人はいなくなってしまって、何をしたらいいか分からなくなって、

ただただ走った。3時間くらい走って、どこかも知らない住宅地で倒れた。


「何やってるんだろ」


こんな事をしたら母親に嫌われてしまう。さしたらもう褒められなくなってしまう。期待されなくなってしまう。帰らなければ、でも帰りたくない…


「矛盾だ…」


目をつぶって色々考えた。考えた続けた。だけど酸素の回らない頭じゃまともに考えられなくなって、

いっそ死んでしまおうとした時だった。


「美しい…」


そう声が聞こえた。

私は咄嗟に目を開けて声をする方を見た。

そこにいたのは男の人だった。

男性は前髪は伸び切っていて。後ろで髪を結んでいる。眼鏡をかけ、不相応な立派な着物を着ていた。


「こんなに美しい人間を見たことが無い… 顔も良よく、胸もでかい、身長もモデル級で、


「こんなに美しい人間を見たことが無い!なんて事でしょう!」


ずっと聞いてきた言葉、何も響かない。


「_____________ぜひ私のヌードデッサンのモデルになってください!」


…突然言われた言葉を私は理解する事ができなかった。だけれど酸素の足りない頭では何も考えられず、


「いいですよ」


私は了承してしまった。


__________________________

男に連れてこられたのは、とある一軒家だった。かなりボロく一階しかない小さい家だった。

「ちび○子ちゃんの家みたい」


「ちび○子ちゃんの家はもうちょいでかいですよっと」

男ががたついてる扉を開けると玄関で靴を脱いだ。

「…どうしましたか?早く入ってきてください」


「…お邪魔します」


たどり着いた部屋はかなり小さく、中心に段ボールが一つ、そして端っこに椅子とスケッチブックが置いてある。


「あ、鉛筆を忘れていました。ちょっと取ってきます、服を脱いで、段ボールの上に登って、適当にポーズ決めておいてください」


「こういうのって書く人が決めるんじゃないんですか」


「普通はそうですね、でも君のありのままを描きたいので、ではお願いします」


そう言って男性は行ってしまった。


とりあえず私は服をぬいだ

ポーズ、ポーズ

とりあえず仕事でしてるポーズでいいか


「いぇーい」


「…なにしてるんですか」


「適当にポーズをしろと言われたので、私が仕事でしてるポーズを」


「そんな目が死んでる子にそんなアイドルみたいなポーズされても誰も喜びませんよ…」


あれ?これが1番可愛いポーズだと思ったんだけどな


「はぁ…ごめん言い方が悪かったです。1番楽な姿勢で立っててください」

そう言われて私は何もポーズを取らずに普通に立った。

「はいそのまま動かないでくださいね」

そういうと男は絵を描き始めた。


__________________________

「んー!休憩!」

3時間ほど立ち、男はペンを置いた」

「終わりですか?」


「いやだから休憩って言いましたよね?何ですか?聞いてなかったんですか?」


「はい、すみません」


「どストレートに言われるとなんか腹が立ちますね…」

男はスケッチブックを置き、寝っ転がり始めた。


「…」


「何ですかその顔は、言いたいことがあるなら言ってみなさい。私起こりませんから」


「貴方は私の体を見ても欲情しないんですね」


「はあ?何ですかいきなり」


「普通、私の体を見たら欲情するものじゃ無いんですか?」


「あのですね…ヌードデッサンで欲情するなんて作品に失礼なんですよ。僕は貴方が私の作品にピッタリ合っていると思ったから呼んだんです。」


「そうなのですか?てっきりヌードデッサンと言ってエッチな事をするのかと」


「何でそうなるんですか…欲情するわけないでしょ、貴方なんかに」


「心外ですね、私は完璧な人間なんです。私に欲情しない人間なんていません」


「現にここにいるじゃないですか、というかですね、貴方何を勘違いしてるかわかりませんが」

男は座り直し

「貴方、全然完璧な人間なんかじゃないですよ」

と言った。


「まあ貴方は世間では完璧と言われてたんでしょうね。笑顔も作れたし、何でもできたんでしょう。でも貴方は今、表情が完全に死んでいる。友人がどんどんいなくなっていったんじゃないですか?。家族にはプレッシャーをかけられませんでしたか?」


「そ…れ…は」


「あらかた、ずっと完璧にやってきたのに、小さいミスをして、親に怒られて家出してきた…という感じですかね」


「…大体合ってます」


「貴方何回も失敗してるじゃないですか、そんなの完璧とは言わないですよ」


「…」

返す言葉がなかった。


「はぁ…くだらない、貴方何の為に今まで生きてきたんですか」


「それは、私が褒められる為です。親に友達に褒められる為にやっています」


「…はぁくだらない」


「僕はね、絵を描くのが楽しくて楽しくて仕方ないんです」


「僕は絵を描く為なら1ヶ月何も食べなくてもいいです。一週間寝なくてもかきます。絵を描いたら死ぬと言われようが絵を描きます」


「僕はね、はっきり言って絵の才能はかなりあります。預金には50億ほど入ってますし、月収は多い日で1億は超えます。

ですがね、例え絵の才能がなくても描いてたと思います」


「それは、何故ですか」


「僕が描きたいからです」


「それ以外に理由なんてありませんよ。描ければいいんです。だってそれが一番楽しいから、僕は楽しいと思った事をし続けています」


「楽しんで行きましょうよ人生、沢山の才能があるのに勿体無いです」

そう言って彼は、今までの彼と思えないくらいの笑顔をこちらに向けた。


そう言った後、彼は絵を描くのを再開した。絵を描いている彼の姿は美しく思えた。


__________________________

「はー!完成!素晴らしい絵ができました!」


「…顔しか描いてないじゃないですか、私裸になる意味ありました?」


「気分が変わったんです」

先生は自分の絵を見てニヤニヤしている。正直ちょっと気持ち悪い


「先生」


「貴方に先生と言われる筋合いはないですよ」


「画家って先生って言われるんじゃないんですか?」


「お客様や弟子になら呼ばれてもいいですが、貴方に呼ばれるのはちょっと癪です」


「じゃあ弟子になりたいです」


「嫌です」


「私を弟子にしてください」


「嫌です」


「私を弟子にしてください」


「嫌です」


「私を弟子にしてください」


「嫌です」


「弟子にしてくれないと永久に言い続けます」


「…はぁ、正直貴方の目はもう死んでないですし、デッサンも終わったので貴方に用はないんですよ」


「弟子にしてください」


「貴方はbotですか!?」

先生は頭を抱え、少し考えると私の方へ向いて

「じゃあこうしましょう。貴方は勝手に書いてください、そして私は貴方の作品にダメ出しをします」


「はい」


「…」


「…それで終わりですか?」


「終わりです!貴方の作品にダメ出しするだけです!一切アドバイスなどしません!あとは勝手にやってください!」


「あ、えっと…私スケッチブックとか持ってないんですけど」


「隣の部屋に嫌になる程あるのでそれを使ってください」


「鉛筆もありません」


「以下同文」


「あと私寝る場所がありません」


「知りません、適当にどっかで寝てください」


「布団とかないんですか?」


「私は普段、畳で雑魚寝してます」


「…わかりました。じゃあそうします」


「はぁ…何でこんなことに…」


「先生」


「だから先生と呼ぶな!」


「これからよろしくお願いします」


「…はぁ、よろしくお願いします…」

こうして私の新たな人生が始まった。

多分これまでと違って安定やレールからは外れた生活をするんだろう。

だけれど私はこの生活がとても楽しみに思えた。



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