アオイトリ
蒼介
第1話
「腕神経損傷。翼くんの病名です。治っても数ヶ月から数年はかかりますので、選手としての活動は厳しいと考えられます。」
画像を指しながら淡々と説明する担当医の言葉に、俺の視界は真っ暗になった。
それは、ある夏の日だった。いつも通り部活を終えた俺は、高校名の入ったリュックサックを背負い、チームメイトである海斗と帰路に着こうとしていた。
「ねー翼。君って好きな人とかいないの?彼女とか。」
「んなもん居るようなタチに見えるか?お前みたいに顔が整っているならまだしも。」
「はいはい。そんなことないですよって言っても聞かないよね君は。」
気だるそうな返事を返しながらのんびりと自転車を漕ぐ海斗にイライラしながら並列漕ぎをする。
「それより、今日から僕らの代になったって訳だけど、なんか意気込みとかある?」
「まぁ…甲子園に行くことだろ、やっぱり。ただでさえウチ行ったことないんだから。」
うちの高校は毎年、県内でもベスト4までは食い込むが毎回準決勝で敗退してしまう所謂中堅校って所だ。
「でもやっぱり、そんなこともこんなに大きな空に比べたらどれだけちっちゃな夢なんだろうね。」
そう言いながら両手を離す海斗の手の上には、満天の星空が広がっていた。
「それじゃ、僕はこれで。」
「おう。またな!」
コンビニの前のT字路で別れた俺は、ぼんやりと空をながめながら家を目指す。すると、奥から眩い光を浴びせながら向かってくるバイクの集団が見えた。
「ったく、夜中にうるせぇな。もう11時だぞ。さっさと寝ろっての。」
ぼりぼりと頭を描きながら向かってくるバイクにボヤく。そんな俺に1台のバイクが向かってきた。
「ヒィィィヤッハー!」
「なんだアイツ、目の前見えてねぇじゃねぇか!」
そう叫んだ頃には時すでに遅し。バイクは、俺に突っ込んできてそのまま意識を手放した。
「…君。翼くん。大丈夫ですか!翼くん!」
視界がクリアになっていく中、心配そうに俺を覗き込む両親と担当医の姿が見えた。
「とりあえず、追加の検査と万が一を考え、翼くんにはしばらくの間ここで入院してもらいます。」
「大丈夫だ。私達で色々と連絡は回しておく。まずはお医者さんによく診てもらいなさい。」
「何かあったらすぐに連絡しなさいね。」
頭が追いつかないまま、病室を見回すと、両親と担当医はそのまま病室を出ていった。
「…大変なことになったな。」
病室の窓を開けると、すぐ下には俺の通う高校とグラウンドが見えた。どうやら、近くの市立病院に搬送されたらしい。
幸い、病室は俺一人の個室で、右腕以外は自由に動く為に移動の制限は特にかけられることは無かった。
「これがじいさんばあさんと同じ部屋だったら相当気まずかったんだろうなぁ…。」
苦笑しながらスマホを取り出し、LINEを開くと、見たことの無い通知の量とともに心配のメッセージや不在着信が送られてきていた。
そのメッセージ一つ一つを返信し、一息つこうとした頃に俺は深い眠りについてしまった。
アオイトリ 蒼介 @yakku0890
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