世界は劇場であるべきだと龍は考えた。 3
屋敷の庭に駐車をして、龍卵を入れた籠をサイドカーから外す。車輪が着いたそれを引きながら、ジュークは進む。その後ろをスティが歩く。
スロープがあり、それを伝う事で玄関へと龍卵を入れるだろうと、進めていく。
「誰も出ないのね」
「用意が悪いのか、用心しているのか」
「んー、用意が悪い方かな?」
門番がいない事を軽く指摘しながら、スティは警戒心を少しだけ高めていた。ジャケットの内側にある黒鉄色の武器が少しだけ顔を出していた。
「それは仕舞っとけ。依頼料が取れなかったら痛いぞ」
「へいへい」
ジャケットの前をしっかりと閉めて、スティはノックをする。
「こんにちわー!ここからで大丈夫でしょうか?」
大声で響くスティを横にジュークはそっと刀に手を置く。
「敵が出てきたら・・・」
「わかってる」
「ふふ、流石スティちゃんの相棒くん」
スティは一歩だけ下がる。ギィーと建付けが悪いのかドアが音を立てて開く。中から燕尾服を着た女性が一人現れた。
「お待たせしました」
静かな女性だ。ジュークは刀から静かに手を下す。
「ダースン家にようこそ。わたくしはここで執事を務めています、ダーラス・ケンディアと申します」
金髪というには輝きのない色合いの髪をした女性だ。ジューク未満、スティ以上の身長に纏った燕尾服はどことなく古く見える。
「あ、龍卵を届けに来ました」
「えぇ・・・存じております・・・。えーと・・・あぁ・・・そうですね。依頼書にサインを書きますので・・・えぇ・・・」
ゆったりとした声にジュークは顔を少しだけ顰めた。なんか怪しいと思いつつも、スティへと視線を向けた。スティは少しだけ笑みを崩していた。
「あぁ・・・どうせなら中に入ってお待ちください」
「あ、大丈夫です。我々はここで待ちます」
「いえ、遠慮なく。寒かったでしょう」
スティとジュークは顔を合わせた。寒い?と首を傾げた。春は終わりを迎え、夏がやってきそうな時期だ。太陽が差し込まない場所とは言え、寒さは過ぎた季節だ。
そもそも大陸自体が寒さと無縁な地域でもあった。太陽が漂う土地とも呼ばれ、夏が長い。それなのに寒いとは。警戒を緩めずに一歩、ジュークが踏み出す。
「折角だから、入るか?」
「帰りはしっかりしてよね」
ジュークの言葉にスティは返す。溜息はもう呑み込んでいた。そんな二人を見て、コテンと一回だけ首を傾げては案内しますと、ダーラスは歩き出す。その後ろ姿を追うようにゆっくりと二人は歩み出した。
外から豪邸なのでは?と思っていたのだが、それは期待外れだったのかもしれない。空間は広いが装飾品はあまりない。質素と言えば良いのだが、どことなく寂しい雰囲気が生まれていた。
それに対して疑問を持った事が悟られたのか、ダーラスは一度振り返る。
「・・・えー、当主・・・そうです・・・倹約家でして・・・はい」
ゆったりした声でダーラスは言う。
「しかし・・・まぁ・・・はい」
そして言葉が止まる。コテンと首を一度傾げて、前を向く。
話は終わったという感じで前を向いた。
「そうですね・・・ええ、最近はそうですね・・ええ・。怪盗の目撃が多いですね・・・はい」
うげ、とスティはわかりやすく顔を歪めた。ジュークは警戒を強めた。
「外れの中でも外れだわ」
「確かにな・・・頭がパーさんなのか、そんなパーさんの実験体か」
「うちの方じゃないわ。魔術系は無頓着だからさ、その際は任せる」
スティは逃げるの専門なのよ、と彼女は小さく笑う。
廊下の角を曲がると途端、装飾が華美となった。龍、トカゲ系の大型種をモチーフにしただろう、様々な像や絵画が並ぶ。それにジュークは顔を歪めた。
「信者かよ」
「こら、顔を顰めちゃだめよ」
面倒だからと、スティは小声で注意する。龍への信仰というのは珍しくない。周りが良い顔をしない事が多い。特に支配が強い地域だと、なおさらだ。覇龍の存在が強いからだ。
覇龍以外の龍を信仰する事を嫌うからだ。支配が十分ではない。それを理由に都が落ちた話は珍しくもない。覇龍の絶対的な支配は信仰を許可しなかった。
たとえ覇龍の支配がなくなっても人はその恐怖を忘れてなかった。
「こちらで・・・はい・・・お待ちください・・・」
一室に案内された。ダーラスは一礼して静かに離れていった。広くもなければ狭くもない部屋で二人は勝手に座る。
ドアから離れた場所でお互いに向き合う様に座る。
テーブルの隣にある大きな龍の像へと視線を向けるスティはふと、立ち上がる。
「んで・・・スティとしては何がありそうなんだ?」
「んー、スティちゃんとしては・・・アレはフレッシュゴーレムの類じゃない?」
「あー・・・死体合わせか?」
「そうそう。綺麗な形だけどさ、コテンと首傾げてるのがちょっと気になるのよね」
「・・・あぁ、そうか。蘇生した死体なら魂との接続はしっかりしているからか」
ジュークは思い出しながら話す。昔所属していたパーティに魔法に詳しいメンバーがいた。その人から魂と肉体の接続に着いての話を良くしていた。
「そうそう。魂の器は胴に宿り、思考は頭に宿る。だから、魔法使いは頭を壊して、埋葬するってね」
そう言い、スティはペタペタと像を触り出す。
何かしらの機械なのか?とジュークは考える。
「フレッシュゴーレムなら適当な動物の死体を合わせて、最後に人の魂を入れるのが一般的だからな」
「それで首を傾げたり言葉が不調だったりするのよね」
そこまで言うと共に、ポキと軽く何かが折れる音が響いた。スティは静かに後ろを向き、手に持っているは龍の像に着いていただろう、手らしき物だった。
「・・・てへ」
「隠せ!隠せ!」
ジュークは慌て出した。
獣之時代 幸益アリス @michino46
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。獣之時代の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます