世界は劇場であるべきだと龍は考えた。 2
龍卵の運搬。龍の卵だと思われる卵をダースン家へと運搬。10万ギィル
その簡潔ながらはっきりと何をするだけの情報が書かれた紙を見て、ジュークは呆れた視線を隣のスティへと向けた。
「怪しくねえか?」
「あー、あははは」
笑いながら顔を逸らすスティに溜息を飛ばして、ジュークは依頼書へと再び視線を向ける。
スティと組む前は著名なパーティで活躍していたジュークだ。彼自身は読み書きは不得意だが、怪しいかどうかに関しては教え込まれていた。
依頼内容に対しての金額は注意しておけとはよく言われていた。
今回の依頼は特にそうだった。10万ギルというのは人二人が二か月ほど生活できるほどの金額だ。それを卵の運搬だけで出すわけがない。
依頼主は頭の悪い奴か詐欺師なのかとジュークは推測するが答えはわからない。金額に目を眩んだのだろうと、スティへと視線を送るが本人は目を逸らしていた。
「マネーと金は世界を統べるって言うじゃん」
「残念ながら得る経緯で死んだら元も子もねーんだわ」
ジュークの溜息混じりの言葉を添えたバイクの音が響く。
「でもさ、距離や物とかを考えると妥当じゃない?」
「キョジンクイの卵だぞ?はぐれの卵とか探せば1万も要らない んだと思うが」
「いいんじゃない?この地域で龍への恨みは積もった輩が復讐で潰しているらしいし」
「解放された途端にこうだからなぁ」
ジュークの溜息は排気と共に後ろへと流れていく。
「10万ギル貰ったら、仲間とか募集したいね」
「5万は保険として残すとして・・・募集はどうする?」
「雇うの?」
「金で縛る方が楽なんだが・・・」
「夢がないよ、ジューク」
スティは呆れた声と共にアクセルを深く踏む。
「これも質に入れて、大型車を買ってさ、パーティを作ろうよ」
「・・・確かにな。冒険したいんだよな、あんたは」
「冒険したいよ。龍がいなくなる世界を・・・我々は自由になれるんだ!」
スティの言葉と共にアクセルは深く踏まれていった。
・・・
都市には名前はなかった。必要なかったというわけではなかった。ただここを治めていた龍が人間の作った場所に名前があるのを嫌っただけだった。だから、都市に名前があるのが許されなかったのだった。
しかし、今では都市の名前をどうするのかという話がある。龍はもういないからだ。
「結局、覇龍は誰が落としたんだろうな」
「色々と説があるけどさ・・・ほら、あそこってもう人がいないからね・・・」
「誰も知らないってことか」
地図を眺めながら適当な会話をする二人。龍が落ちた。その情報はすぐに広まった。寿命を奪い、己が糧にしていたという覇龍。それを人間が落としたという。
「自称英雄は多いけどね」
「力量不足ってわかるな」
自分が龍を落とした英雄だと、名乗る男が力自慢をしている姿を横目にゆっくりとバイクを運転する。
「ダースン家はどこだろう?」
「ビル街なのが悪いのよね」
「龍に許されたからと言って、バカみたいに建てたからなぁ・・・」
乱雑されたビルの隙間合間をゆったりと通りながら、改めて地図を眺める。
「地図だと、ここを曲がったらあるっぽいな、ダースン家」
「んー、あれかな?なんか・・・屋敷っぽいね」
「場違いだなぁ」
ビルの森に囲まれた屋敷はそこに建っていた。広いのだが、周りのビルのせいでどこか狭く感じる屋敷だ。ゆっくりとバイクを進ませて、門の所で駐車をする。
門の所に呼び鈴が一つ。ピンポーンと鳴らす。少しだけ、ズズとノイズが走り、『はい』という音がどこからか響く。
「すみませーん、依頼で来ましたー!」
龍卵を届きに来ましたー。とハキハキとスティが話す。その隣でジュークは目を伏せていた。
「・・・何かいるの?」
「いや・・・」
妙な気配を感じていた。ジュークは静かに周りを見渡すが何もなく、首を傾げた。
お入りください。という声と共に門が開く。
「・・・スティ、怪しくねーか?」
「その際はジュークが頑張るだけだよ」
無責任な。はっきりと溜息を落として、スティを睨むがスティは気にせずにアクセルを踏んでいた。
ブオーンというバイクの排気音と共に門の中へと進んでいった。
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