世界は劇場であるべきだと龍は考えた。 1

大陸の最北端、その更に北へと向かうと底なしの穴があると言われる。海が途中で消えたその空間には龍が生まれては、龍が還る場所と言われている。もちろん、それは覇龍たちによって否定はされている。

 龍は存在が確定した時に出現するという。親という概念などはなく、胎生でもなければ卵生でもない。自然発生するだけの存在だと言う。

 もちろん、その事を知っている人は少ない。故に大型の卵を龍卵りゅうらんと呼ばれ、市場に流れている。

 その龍卵を運ぶ仕事だと言われて頭を抱える自由ぐらいは許してくれと、勝手に受けた仲間に対してジュークは睨んでいた。

 ジュークは長い黒髪を後ろに纏めていた。腰に差した刀は一本、後ろに槍を背負う姿は戦いに赴きを置く人のそれであった。紫のジャケットに黒いズボン、インナーは赤色とヘンテコな組み合わせは性能だけを見て選んだ結果でもあった。


「ジューク、これから龍が減っていくのだよ」


 少女は自分の腰ほどもある卵を撫でながら満面な笑みで話す。

 チャンスなんだよと。笑みを浮かべて言う。


「龍卵という貴重な商品を運べるのは流石、ステイちゃんってことね」


 スティはそう言い、ウィンクを一つ零した。ジュークは何も言えずに溜息を落とす。臍出しのスタイルのシャツを着ながらも長く白いズボンとごつい黒ジャケットはモノトーンとなっていた。黒と白が混じった髪を弄りながら、スティは笑みを浮かべた。どうだ!と。


「あのなぁ・・・龍は卵を産まないってこの前話したんだろ?」

「知ってるよ。これ、キョジンクイトリの卵よ」

「あー・・・あれか」


 ジュークは苦い顔をする。キョジンクイトリは草食の鳥だ。その大きさ故に巨人を食べそうだからと名付けられたのだが、実際は木々を食べる。巨人は龍によって絶滅したが、この鳥は巨人がいなくても生き延びていた。それで何を食べているのか?と調査した結果、木を食べていたという。

 草食ではあるが危険なのは変わらない。巨体でありながらも群れを作り、卵や子を守る。群れたキョジンクイトリに挑む人間は少ない。その上に大型の龍が好んで食うのだから、その卵はあまり知られていない。

 龍が去った後に卵だけが残る為に龍卵だと勘違いされている事が多い。


「それでこれをどこまで運ぶんだ?」

「南にある街でさ、大金持ちさんが欲しいの」


 コンコンと指で軽く叩いてジュークは訪ねて、スティは笑って返す。


「ブルジョワ野郎か?」

「うん、支配から解放された馬鹿なブルジョワ野郎」

「あー、なるほどな」


 ジュークは頭を掻く。面倒くせえという思いを溜息と共に呑み込む。二人が今いるのは覇龍から解放された地域だ。経済は人間よりとして爆発的に発展し、金持ちへと化けていった人間が多くなっていた。金が余っていた人や元々覇龍の下に集っていた人々は一気に経済としての実権を握っていった。

 もちろん、賢い人間は賢く金を使っていた。しかし、金持ちになった結果浪費を繰り返す人間もまた多かった。

 スティが拾った仕事はこの手の馬鹿からの仕事だったりする。


「儲けれるならいいんだがな」

「へへ、ジュークがいると安全だからね」


 スティの言葉にジュークは顔を顰めた。

 

「お前はもっと安全な仕事を探せ」

「嫌だ」


 スティはそう言い、パンパンと手を叩く。グインと龍卵の下から鳥籠が現れて卵を囲む。グインとその下から車輪も生えたのを確認し、スティはサイドカーバイクに乗る。


「さぁ、行こうぜー」


 スティの言葉にジュークは無言でサイドカーに座って答えた。

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