獣之時代

幸益アリス

落龍

 龍は天を覆う。

 空は龍一色となり、その影は地を夜へと落とし込む。そう、龍は覇者であった。覇者は何かを龍はその身により地へと知らしめていた。

 そこは龍埜時代であった。


 五つの龍は己が特別の存在だと認識していた。圧倒的な力により、世界を分かち統べていった。彼らはいつしか、『覇龍』と呼ばれていた。

 覇龍により、世界が五つの領域に分かれた頃、彼らは改めて世界を総て己だけの物にせんと動き出した。


 国を興しそこに住まう者の寿命を己の命の糧とした龍。


 勇者と呼ばれる存在を産みだし世界を劇へと変えようとした龍。


 死を恐れ、死を否定する事によって神と成り替わろうとした龍。


 ただ純粋な暴力により世界を滅ぼさんと蹂躙を繰り返す龍。


 人を知ろうと己を人へと近づけた龍。


 五つの龍はそれぞれ己の欲が為に活動をしていた。それだけだった。世界を統べる事で願いを叶えれるだろうとしただけであった。

 龍による支配は長きに渡った。人々は立ちあがって、革命を起こさんと武器を持った。しかし、龍は絶対だった。

 人々は勝てなかった。

 天を統べ、地を見下す、絶対覇者へ獣たちの牙は届かない。


 そして、それぞれの覇龍が己以外の覇龍を改めて敵と見做し、攻撃を始めようとした時であった。


 覇龍は落ちた。


「龍は堕ちた!!獣の牙はこの時代へ確かに届いた!!」


 英雄と呼ばれるのには泥臭い青年の叫びはそこにはあった。

 その叫びは『獣之時代』の産声でもあった。

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