Best girls On Board(翔)


 お別れの日、彼女はあの劇団の子が私だという事は、最初から分かっていたと教えてくれた。

 「ええ、どうして?」

 尋ねると、テレビで憧れた相手が誰だったのか、一度彼女もそれを探してみたらしい。結果、当時の劇団のホームページに該当の演目と私の写真があった。ということらしい。

 何で教えてくれなかったの?!という問いに、彼女は「だって本当にそうなら、緊張感ある距離をとれなくなるかもしれない。」とプロの矜持を語った後、「それに。気恥ずかしいじゃない。」と笑った。

 少し嬉しかった。そんなにかしこまらないで、と笑った私の気分は、彼女と会った時からは想像もできないぐらい自負に満ち溢れていた。そして、それを支える小さな自尊心と、それを背負う覚悟の価値のすばらしさ。その後の単座機に乗り換えての残りの撮影の最中、それを支えに私は精一杯飛び続けた。半身の希望の星であるために。

―――誰かにとっての、アイドルになるというのはそういうことだ。

 ファンはたった一人だけれども、それで十分だった。

 その後、映画の撮影は無事に終わり、カメラマン達も去っていった。私は定期の人事異動で空母機動部隊への勤務を命じられた。そして、映画の鑑賞は、その空母に備え付けられた映画館で見ることとなった。


お話は素晴らしかった。

 オールド・ネイビー・ネバー・ダイとでも言いたげな物語は、世界の反対側で無人機が縦横無尽に活躍するご時勢に人の力で無人機計画をご破算にし、身体と性別を精神の性別でもって超越する時代に古い男らしさを称え、それをもって新世界にこれを乗り越えてみろと高らかに宣言布告する。古き良きという概念からの未来への挑戦状だった。この映画自体、流行り病の間で他の映画がネットでの公開に踏み切る中で頑なに劇場放映を待ったっという頑固者だ。だが、見ればわかる。タブレット端末ではこの迫力は出てこない。音の壁に視聴者を叩きつけるなんて、劇場でしか出来ないだろう。

 予告編で姿を見せていた遥か昔に退役した戦闘機は第五世代戦闘機が生産される時代を飛ぶ。かつて別の名作映画でドッグファイトしたプロペラ機とその機体との間に流れた時間と同じぐらいの時間が新世代との間に残酷にも流れている。だが、美しさは罪だという意味でで命名された新型機に、それが何だ。こっちの美しさこそ本物の「罪作り」だ、と言わんばかりに可変翼を翻し、空を舞う。

 私は映画の最中は気が付かないうちに泣いていた。無論それは物語の緻密さだけではない。スクリーンの向こうであの女優と一体になって飛んでいる自分と機体が轟音を放って空を駆けていく。それは、漆黒の世界で一際、星のように輝いていた。

―――ほら、私、輝いている。

 だって、彼女は私で私は彼女なんだから。

 エンディングが流れる。監督、俳優の名前。音響、演奏。その、長いエンドロールがもうそろそろ終わると気が緩んだ時、スペシャルサンクスの列が上がっていく。

 特別出演、海軍航空隊、アフロディーテ・フレイム

 そこから、部隊の撮影参加隊員一人一人に役者からのメッセージが添えられていた。

 パネモル1「ベーレ」

 ―――ご協力に感謝します。空を飛ぶ貴方への、惜しみのない賛美を。

 パネモル2「トルネード」

 ―――昨日までは叶えたい夢、もう二度と御免だ。ありがとう。

 パネモル3「ランチャー」

 ―――ご指導が無ければここまで来れませんでした。ではまた。

 そして、その次が私。

 パネモル4「エトワール」

 メッセージは、以下の通りだった。

 ―――あなたは、私。私は、あなた。

 映し出される写真は、最後に撮った、背中合わせの一枚。

 ―――うん。ありがとう……。

 それだけ呟いて、私は誰にも涙を悟られないように席を立った。泣かない。ハッピーエンドの幕は、見ない。まだ何も終わっていない、今はそう、はっきりと言えるから……。

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Best girls On Board 森本 有樹 @296hikoutai

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