僕の話
そうしてまた少しの間、僕もうとうとしていた。
身じろぎの気配がする。起きたかな?
少しうなって、健太がうっすらと目をあけた。手元にケータイを引き寄せて。あ。また寝た。うーん。まあ、もう少しいいか。
でもなあ、そろそろ起きてもいい時間だしなあ。
ちょっとくらい、いたずらしても許されるかな? こんなに幸せそうな顔していつまでも寝てる健太が悪いんだもんね? そうそう。そう思う。
言い訳? はて、なんのことやら。
足元から少し移動して、右手を、健太のお腹にそっと乗せた。上掛けごしに少し押してみる。この上掛けも僕の好みに合わせてなのか、夏場でも、いわゆるタオルケットではなくモコモコした手触りだ。生地が工夫されているらしく、むしろ少しひんやりしている。指が繊維をかきわけ、沈み込む感触が心地いい。掌にはその向こう側の、むにっとした、無防備な柔らかさも伝わってくる。
左手も、同じように添える。交互に力を入れて、モミモミ。
ううむ。たまらん。喉が鳴ってしまう。が、健太が起きる気配、なし。つい指先に力が入ってしまったけれど、そういえば数日前に爪を切られていたのだった。むはは、三日前の自分に感謝するんだな!
モミモミ。モミモミ。
モミモミモミモミ……
それでも けんたは おきません。
今日はずいぶん強情だな。
最終手段で、胸の上にダイブすればさすがに起きるだろうけど、あれは以前やって、こっぴどく叱られたからな。さて、どうしたものか。
ひとまず、お腹をもむのを切り上げ、胸の上に移動した。顔を覗き込む。ちょっとばかり苦しそうな顔。疲れているのに早朝から睡眠妨害されて、健太、かわいそう。
しばらくそのまま眺めていたら、のっそりとした動きで、彼の右腕が持ち上がった。そのまま、ゆっくりと僕の背中を撫で始めた。
ああ、やっぱり健太の手は大きくて優しいな……
お礼に顎の先をちょっと舐める。顔を
かたくなに目をあけようとしないけど、これ、もうほとんど起きてるでしょ。
せっかくだから僕の体調もチェックしてもらおう。
体の向きを反転させて、彼の顔にお尻を向けて座りなおす。
フフ、健太の鼻息がしっぽにあたる。くすぐったい。
お、足元がもぞもぞ動き出した。
彼の体の上から降りて、顔の横に移動して待機。薄目が開いて。
また閉じた。
いやいやいやいや、さすがにないでしょ。起きよう? 朝だよ? 僕の朝ごはんの時間だよ?
思いよ届けと念じながら、彼の頭をかすめるようにして、枕の上を左右に往復。
ついに健太が寝返りを打ってうつぶせになり、そして体を起こした。
僕のほうを見て、
しかし今はそれどころではないのです。
ねえ! ちょっと! 目が覚めたらやることあるでしょ! ねえ! 聞いてる!?
ねえったら! こんなに待ったんだから可及的速やかに! アサップ! アサップですよ! わかるでしょ!?
ちが、今は頭は撫でなくていいの! こっち! こっち来て! ほら!
「ごはーん! ごはーん! ごはー……」
あ、これはこれはご丁寧にどうも、おでこごっつんこありがとうございます。
いやいや! じゃなくて! え、なんでそっち行くの! 待ってって! ちょ、ねえ、踏んづけそうになってないで!
邪魔してないって! 先導してるの! ね!? こっち! こっちだってば! そっちじゃないでしょ!? 僕のごはん皿こっちだってば!!!!!!
「ごはーん! ごはー、ごはーん!!!」
え? あ、そう。新しいカリカリの袋を取りに行ってたの。失礼しましたね。
なに? 新しい味なの? どれ、食して進ぜようではないですか。
うむ。まあまあうまいんじゃないかな…… ところで今日は食後のちゅーるはあるのかな…… 少し残しとくとちゅーるをかけてくれることもあるんだけ、ど…… あれ、しまった。今日は珍しさにつられて完食してしまった。
まあいいか。それなりにお腹もふくれたし。
ごちそうさま。トイレいこ。
うむ。今日も平和だニャア。
いつもの日常 れー。 @kokushiku_tomei
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