素晴らしい作品でした。
まず開幕の二文目。
「十三歳の少年は、自分の背の三倍もある棕櫚の木に、猿でもこうはいかないという速さでひょいひょいと駆け上がり、あれよあれよと言う間にそのまま木々を伝って森の中に消えていった」
ここでもう、あっ天才の所業だと気が付きましたね。
私も比較的文体に気を遣うほうの作家だとは思うのですが、こんな凄くて魅力的なのはそうそう思いつきません。
揺らぎというか、うねりというかそういったものが見事に込められた文章だと思います。描写からも文のリズムからも映像が浮かび上がってくるかのようです。
ああ、こういう書き方もできるんだなぁ、と感動しました。
全編通してこのレベルで凄い文章がうじゃうじゃ出てくるんですからもう圧巻です。最高でした。
あと私が好きなのがナバヤが「わからない」と答えるところで、家族と大切な友達どっちを選ぶかという板挟みの状態で放った言葉としてめっちゃくちゃ良いと思うんですよね……。私だったら多分速攻でシェナリを選ばせて、そこらへんの葛藤とか全然出汁を取れないままに終わらしてしまいそうなので。
絶妙な形で均衡を保たせるこの凄さ、堪らない作品です。
あとですねあとですね、ヴィーダーデラブーがナバヤの耳を噛むシーンも良かったです。最初の方で村の男が左耳を噛みちぎられるシーンがあったんですが、それと物凄く良くシナジーしていました。
何か代償に耳を噛みちぎられるのかな、っと竦んだ直後に、そういう戯れ的な感じで耳を甘噛みされたと分かるの、何というか、ヴィーダーデラブーがナバヤを可愛がっているのが分かる描写としても、読者に追体験させる描写としても、凄くドキドキさせてくれるものがあります。
最後の一段落も、折り合いがついたような静けさが滲み出ていて、とても良かったです。
素敵な民族調ボーイズラブでした。
書き下ろしてくださってありがとうございます!