いつもの日常
れー。
彼の話
目を開ける。健太の顔が視界に飛び込んできた。
ああ、そうだった。このところ疲れてる様子だったので、一人で寝かせてあげることが多かったんだけれど、
スヤスヤとゆるんだ顔で寝息をたてる健太を起こさないように、そっとベッドから降りた。
ちょっとした特技で、時計がなくても同じ時間に起きられるというのか、起きてしまうというのか、だいたい早すぎてこの時間なんだよね。
もう少し寝かせてあげよう。なにしろ僕は気遣いができる子だからね。
彼の寝室を出て、カーテンの隙間から外を覗き見る。夏の気配を感じさせる窓の外は、少しずつ明るくなり始めて、冷房の効いたこちら側とは対照的に、じわじわと熱気が漂い始めている。
うん。今日もいい天気になりそうだ。
彼との夏を迎えるのは、たしかこれで三回目か。馴れ初めはなんだったか、よく思い出せないけれど、狭い場所にいた僕を健太が連れ出してくれたことは覚えてる。それ以来、僕はこの家で健太と暮らしている。
健太は僕よりずいぶん年上なのに、でかい図体の見てくれ通りどんくさい。それと、まあまあ雑。僕が言うまでトイレ掃除しないことあるし。
ちょっと信じられないんだけれど、僕と暮らし始めるまで、夏場でもあまり冷房をかけないで過ごしていたらしくて、健太の友達が遊びに来たときに、そんなことを言って彼をからかっていた。いろんなことに無頓着なのは昔からだったらしい。
でもまあ、そんなところがかわいいというか、放っておけないというか。
くつろいでいる僕をたびたび踏んづけそうになるのはなんとかしてほしいけれど。
好きなところ。もちろんいろいろある。なかでも一番はやっぱりあれかな。健太がソファでテレビを見ているときなんかに、横からそっと近づいて、そのまま視界に割り込む。すると、ちょっと迷惑そうな顔をしながら、しょうがないなあ、なんて言って頭を撫でてくれる。その手がね。大きくて柔らかくて。これが本当に同じ生き物なのか、なんて思ってしまう。
でもまああれですよ。なんだかんだ言って、ごはんをね、用意してくれるのがやっぱり大きいですよね。我ながら現金なもんだと思うけど。ごはん、大事。
そんなふうに、誰に向けるでもなく彼のことを語りながら、少し水でのどを潤す。そして
まだ寝てる。横向きだったさっきの姿勢から寝返りを打って、今度は右腕を頭の上に投げ出して仰向けになってる。口は半開き。はいかわいい。
しかしそろそろ小腹が減ったな…… 食べ物の場所くらい、僕だって把握しているので、自分で用意できるならしたいんだけど。けどなあ……
健太は、わりとなんでも笑って許してくれる。我がことながら、それ叱らなくていいの?と思うこともあるくらい、なんでも。けど、僕がキッチンに近づくと「危ないから」って、すごく怒るんだよね。信用がない。
ちょっと、いやしばしば? つまみ食いをしてはいるけども。そんなに危ないものがあそこにあるか?
ま。料理しろと言われてもできないのはそうなので、それで不便ってこともない。ごはんは最初から健太の担当だったし。
まあいい。せっかく久しぶりに締め出されていないんだし、健太の横でもうひと眠りするか。そう決めて寝室に戻った。
ベッドに上がり、足元に寄り添うように腰掛ける。起こさないように。静かに。そっと。彼の脚に体を預けるようにうずくまる。ああ、あたたかい。
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