PART6

 あのときの僕は疲労が極限にまで達していて正常な判断が出来なかったんだ。

 だからこんな結果になるなんて思いもしてなかった。


「おお、帰ったか、主よ。朕は待ち侘びたぞよ」


 竜人好きのホーヴが部屋を提供してくれた家に帰ると天井からアラーニエのセキエンが目の前に降りてきて腰を抜かしかけた。


 というか抜かした。

 尻もちつきかけたところをセキエンの八本腕に抱き留められて助かったんだ。


 ありがとう、と一応お礼を言うと彼女は微笑む。

 微笑むんだけど、何故か僕を放してくれない。


 居た堪れなくなって放してほしいと告げて初めて彼女は僕を解放してくれた。絞め殺されでもするのかとドキドキだ。


 あのあとディーナはセキエンを殺すことなく放り出したらしい。僕も眠ってしまったし、判断に困ったんだろう。


 目が覚めたときは心臓が口から飛び出す思いをした。

 だってセキエンが僕の顔を見下ろしてたんだから。さっきまで殺し合いをしていて、僕を殺しかけた相手の顔がだよ。


 なんでも殺されなかったことに恩義を感じたんだとか。

 情けを掛けてもらったと思ったんだって。


 僕は言ったよ? そんなんじゃないって。

 でも聞いてくれないんだ、セキエンは。


 それからはどう言ってもくっついてきたがって、二本の腕で重そうに腹を引き摺って追い掛けてくる姿があまりにも痛々しいから追い返すにも追い返せずで……


 それで今に至るわけだ。

 正直まだ疑ってる。僕らの寝首を掻くつもりなんじゃないかってさ。それが普通だよね? 僕が疑り深いわけじゃない。


「朕の傷もすっかり癒えた。腕も元通りじゃ。次からは朕も汝とともに仕事にゆけるぞえ。ようやく汝の恩義に報いるときがきたのじゃ。喜ぶがよい」


 廊下を渡る途中も、天井を這ってついてくるセキエンに一方的に語り掛けられる。元女王さまという事もあって僕のことを主とか呼ぶ割りには上からの目線なのがちょっと気になる。


 怒らせても恐いし、指摘したりはしないけど。


「おー、ロックス、かえったか。シゴトあったかー?」


 ダイニングへと入るとそこではディーナが肉塊を貪っていた。


 彼女や、さっきもセキエンが言った仕事というのは協会から提供される様々な依頼のことだ。


 両親も何故か戻ってこないし、羊もいないから稼ぐためには働かなきゃならない。そのために手っ取り早かったのが協会に所属することだったんだ。


 今の僕は冒険者。

 下っ端も下っ端だけど。


 これまでの人生からすれば考えられなかったことだけど、今はディーナがいるしなんとかやっていけるかもしれない。一応セキエンもいるし……ね。


 二人……二人?

 まあ、二人のおかげで僕は悪目立ちしてるから冒険者仲間から意地悪されないか不安だけど、頑張ってみるよ。


 どっちかが誰か食べちゃわないか見張りもね。



to be continued……?

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ジンガイマキョウ こたろうくん @kotaro

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