第35話 ああ! さらば2次元の彼女たちよ。俺はもうお前たちを愛せなくなてしまったではないか! て、いうより余裕がねぇんだよ! 俺のたいせつな時間。お願い作ってくれよ!!

俺の人生は……終わった。

目の前にあるこの大破したスポーツカーと共に。


「すみません尚ねぇさん」深々と頭を下げて尚ねぇさんに謝罪する。

キャリアから引き下ろされる大破した車。


「ああ、派手にやっちゃったわね。これじゃもう廃車かしら」

「あのぉこの車ってものすごく高いんですよね」

恐る恐ると尚ねぇさんに言う。


「うーーーーーん。そうねぇ、そうかもねぇ。ま、都心に庭付き土地付きの一軒家が買えるくらいかなぁ」

「ゲッ!」聞かなければよかった。冷や汗が足らりと地面に落ちる。


尚ねぇさんはポンと俺の肩に手を当てて。

「うんうん、直登君、そんなに悲観しなくたって仕方がないよこの場合。でも怪我がなくてほんとよかったよ」

そりゃそうだろ、この車の設備だ。これだけ大破しても俺の体は見事までなエアバックのふくらみにつつまれ、がっちりと保護されていたんだから。


秋穂の実家である紫苑神社からの帰り、俺に対向車線から突進してきた一台の車。

何とまぁイエローカットして追い抜きをかけてきた対向車。

視界に入ってとっさに急ブレーキをかけた。それが良くなかったのかどうかは分からないが、車は駒のように回転して、縁石を乗り上げ電柱に激突。そしてこれまた見事に突っ込んできたその対向車が後部車体に激突。

よくもまぁ無傷でいられたものだと今思えば、この車であったからこそ助かったというべきだろう。


突っ込んできた車の運転手は、救急車で搬送された。命には別条はないものの、意識もはっきりしているようだが、結構な怪我を負ったらしい。

「まぁこれは仕方がないよねぇ。保険会社の担当さんも全損扱いにしてくれるみたいだし。相手側も過失認めたみたいだから、私としては別にいいんだけど」

と、尚ねぇさんはにこやかにほほ笑みながら言うが、何かチクチクと胸に刺さる語尾が俺を威嚇しているような感じがするのは気のせいか?


「ところでさぁ。ねぇねぇ。約束てさぁ覚えているよねぇ。もちろんだよねぇ」

「約束?」

「もう嫌だなぁ直登君そこでとぼけないでよぉ! ほら、車貸すときのや・く・そ・く・だよ!!」


うっ!


「あのぉ、この場合俺の過失という訳じゃないということで、そのことは無効ということになれませんか尚ねぇさん」

「ううん、私はねぇーーーー。無傷と言うのが条件だったと思うんだよねぇ。全損廃車なんだし、ねぇ、この車。そうだよねぇ。さぁて直登君、あなたの人生私がもらい受けちゃいます!」


「ちょっと待てぇ!」


俺と尚ねぇさんの話に、怒りを満ち浴びた顔で割り込んできたのは七瀬だった。

「黙って聞いてれば大家さん。いや尚さん、先輩をこうやって自分のものにしようとしているのありありじゃねぇですか! おらだって、先輩の事自分だけのおらだけのお・と・こ。として付き合いたいていうのに、そこんところ、知っているんだべ。あんたも、あんときおらと先輩が愛し合っていたのを目にして分かっているべや!!」


フン、と鼻息を荒くしながら七瀬は怒鳴り込んできた。ああ、マジなんかまたややこしくなってきたんだけど。


「あら、あなたがこの車の代金肩代わりしちゃうの? 高いわよぉ! あなた一生かけて払っていくことになるんだけど。そこんとこわかって言っているの?」

「べ、別にぃ。そげな事、このおらが一生かけて先輩のために私の人生をささげちゃう」

「へぇ―、ああ、なんか昭和の時代のあの貧しい暮らしの歌が流れてきそうな景色が浮かんでくるんだけど。ふふふふ……。あなたには無理よ」尚ねぇさんのあの陰湿な見下した顔がなんか怖く感じる俺。


「あ、あのぉ……」

そこに今度は優奈がおずおずとこの修羅場の中に入ってくる。


『優奈よ。何を遠慮しておるのじゃ。今はおぬしとわらわは一心同体じゃ。おぬしのその奥ゆかしさも美徳じゃが、ここ一番と言う時に、自分を押し込める癖はもう必要ないのじゃぞ。優奈よ。もう何もとらわれることはないのじゃ。おぬしの心が欲するままに、本来の優奈としての姿を今あ奴に見せてやればよい』


そ、そんなこと言ったって、……で、でも私、負けたくない。直登さん――――私直登さんの事……す、好きです。そうなんだよきっと。だからこの胸の中がいつもモヤモヤしていたんだよ。

年なんか関係ない。私だってもうじき18歳になるんだ。もう結婚できる年なんだよね。――――ねぇ、お母さん。お母さんは私のこの願いをこの私の小さな心の叫びを聞き届けそして今まで守ってくれた。

お母さんの気持ちも……私には分かる……でも、私。やっぱり直登さんが好きなんだよ。


「あのぉ、この車の弁償代くらいと言うか。私が新車で買ってあげますけど。それくらいの事なんでも無い事なんですけど。それにこうなった原因は私にあると思うんです。直登さん……私の事心配して駆けつけてくれたんですもの。この程度のお車の2、3台くらいすぐにご用意させますわ!」


『うむうむ。よう言った優奈。その気じゃもっと強気でなければおぬしはこのおなごたちかには勝てぬぞ』


「あのねぇ、そうやって裏で優奈をけしかけるのやめてくれない! 確かにこの車位、宮下の財力ならおこずかい程度でしょうからなんとでもなると思うんだけど」

秋穂がなんかあきれながら言う。

「うっ! それ反則じゃない? 財閥の力を持ち出さないでよ」

尚ねぇさんもあきれたように言う。


「あら、そうですか、でも宮下は私の家そしてこの因果を私が全て受け入れる覚悟をなすがゆえに言える言葉と私は思います。だから、私は生涯をかけて、私のこの私が保有できる時間すべてを……直登さんにささげたいんです。いいえ、捧げます!」

「うぎゃぁ!! 現役の女子高生が問題発言してんだべ。でも、おらはぜてぇに負けねぇんだから。おらの魅力でこの体で大人の魅力で先輩を落として見せるんだべ」

おいおい、七瀬。大人の魅力って、お前にそれを求めるのはちょっと難しいかもしれないな。


ああ、3人の火花がバチバチと飛び交っている。でもその様子を秋穂はなんかにっこりとしながら、眺めていた。

そんな秋穂の姿を俺は思い出していた。あの時の。まだ秋穂が俺のクラスメイトであった時のあの姿を。

何かとても懐かしい。そして感じるあの時の淡い感情を。今となってはもう手遅れなんだろうけどな。


「ところでさぁ、秋穂ちゃんと優奈ちゃん。あなたたちはこれからどうするの? やっぱり、自分たちの家にって、宮下家と言えばあのお屋敷なんだよねぇ。かなぁり有名なところだから知ってんだけど。確かうちの仲介の不動屋さんも、宮下グループの傘下だったわね」


「帰りませんよ」

優奈ははっきりとした口調で尚ねぇさんに返す。


「だって、こんなに直登さんにはライバルがいるんですもん。ここで宮下のお屋敷なんかに帰っちゃったら、それこそ戦線離脱じゃないですか。私と秋穂お母さんは直登さんと今まで通り一緒に暮します」

「お、おらもここに越してきます」

七瀬が負けじと言い張る。


「あら、ごめんなさい。ただいま満室状態なんですけど。七瀬ちゃんは入れる隙間なんて無いんだけどなぁ」

「じゃぁおらも先輩の部屋に同居しますだ」

「おいおい、そりゃ無理だぜ七瀬。さすがにあの部屋で4人は無理と言うもんだ」

「それじゃ先輩の部屋の前にテント貼りますそこで寝ます」

無理言うな七瀬!


「でもでも……七瀬は、どうしても先輩と一緒にいたいんです」


「う――――ん」と優奈は何かを考え込むような感じでじっと俺の方を見つめていた。

そしてニヤッとしながら「それじゃぁ仕方がないですねぇ。みんなで住んじゃいましょうか!」


「はぁ? 本気か!」



あの日以来、なんだか優奈から感じる何と言うか、そのうまくは説明できないが前とは少し変わったような気がする。

なんだろうな、たまに聞こえてくる天国の爺さんの声と似たような何かそれに近いようなもう一つの何かが優奈の中に宿っているかのような。


これはこの後少ししてから聞かされたと言うか、この優奈の雰囲気の変貌がとても気になり秋穂にそれとなく聞いて知ったのだが、信じるかどうかはさておき、優奈の中には邪神陰と呼ばれる不浄の神が宿っているのだという。


いや宮下家と言う日本を裏で支え、維持するほどの財閥の孫娘。その宮下家にはある呪いとでもいうべきか。ここはそうのように表現したほうがしっくりくるんだろな。

その邪悪の念から優奈を守るために秋穂はあえて宮下家から優奈を連れ出し生活をしていたという。

優奈にその邪神の念が届かぬように。秋穂の持つ巫女としての霊力をもって守っていたのだと。


だが、時たま出てくるその邪神陰の神のその性格は、何と言うかその、俺は到底と言うべきであろうか。外見はあの可愛く愛くるしい美人の優奈の姿なのだが、理解し難い姿を見ることになるとは少々心がいたいというのが本音だ。

しかし、その邪神陰と言う神が優奈に宿ることによって、彼女にかかる呪いの念を浄化し、もってあと2年と言われた優奈の命を維持しているのだと秋穂は俺に教えてくれた。


「ねぇ直登さんもうそろそろ準備しないといけない時間です」にっこりと優奈がスマホから視線を俺に向けて言う。優奈はスマホで何見ていたのかって。ちらっとそれとなく見たが、横文字英語の文章がぎっしりと表示されていたのを目して「何読んでんだ?」と尋ねれば、海外経済書の現本をスマホにインストールして読んでいるんだということだ。さすがは次期宮下家の党首となる人物だ。俺なんかには到底理解いや、その前に読めねぇんだけど!


「あっいけねぇ、もうそんな時間か……て、七瀬の奴まだ起きてこねぇのか?」

「私起こしてこようか?」秋穂が、七瀬の部屋に向かう。

「七瀬ちゃんもう遅刻しちゃうよ! 直登君出ちゃうよ」

部屋の中から「ぎゃえぇぇぇ!!」と悲鳴のような声が聞こえてくる。これももういつもの朝の日課となっている。


「なんでもっと早く起こしてくれなかったんですか!!」

「うっせい七瀬。夜更かししすぎなんだよおめぇは! また遅くまでアニメ見ていたんだろ」

「――――だってぇ――――。先輩から教えてもらったアニメ面白いんですもん。続きがきになちゃって、つい」

「全くもう」とは言うものの、まんざら悪い気はしない。何か俺を見ているようなそう、以前の俺自体がそうであったからだ。


「おはよう! さぁて今日も秋穂ちゃんお手製の朝ご飯で一日を乗り切るぞぉ」

お隣に住む大家の尚ねぇさん。毎朝のように俺たちのこの家にきては秋穂が作る朝食を食べにくる。

そう、今俺たちは尚ねぇさんの家の隣に一軒家を立ててもらいその家で俺と七瀬、半住居人てきな存在ともいうべきかもしれないこの居座り方の尚ねぇさん。


そして、優奈。(ん――――これは理解の受け入れが難しいかもしれないが、優奈に宿している邪神陰(なんでも女性の神らしい)と。

こんなに騒がしい状況なのにとても幸せそうに微笑む秋穂の姿を見つめながら、この家をシェアハウスとして共同生活をしている。

もっとも、これは七瀬の駄々が原因と言うのは言うまでもない。


ま、それぞれお互いのプライバシー……。

普通はさ、保たれているのがお約束なんだろうけど。


「ねぇねぇ直登さん急がないと遅刻しちゃいますよ」

「先輩待ってくださいよぉ!私も今準備しますから」

「おお、今日も一日頑張るぞう!」意味の分からない雄叫びを発する尚ねぇさん。


「ほら、直登君。またネクタイ曲がっているよ。直してあげる」

毎朝の日課のように秋穂は俺のネクタイをしっかりと結び直す。


おおおおおおお!! 直登よ。おぬし知らぬ間にハーレムを築きおったか。さすがはわしの孫じゃ。

わしの導きもまんざら間違ってはおらなかったようじゃの。


「人との出会いは何らかの意味があるから出会えるんだ」

死んだ爺さんがよく言っていた。


あの時。秋穂と優奈が俺の前に現れ、押しかけるように俺の部屋になだれ込んできた二人。

それを許したのは。

【ひと夏の過ちは人生最大の過ち】であったのであろうか。



「何を言っておる直登よ。これはお前が選んだ道なんじゃわしの導きを選んだのもお前じゃかろの」

なんて言う無責任極まりない爺さんの声がふと耳に聞こえてきた。


うっせいこのくそじじぃ! 俺の平穏を返せ!


うほほほほっ! これからじゃ、お前が進んだ【人生最大の過ち】が起きるのは。


これは―――――まだプロローグにすぎんのじゃからのぉ!


はぁ? マジかぁ。





ひと夏のあやまちは人生最大の過ち!母娘共々お世話になります。



                       終わったかもしれないです。(笑)





*長きにわたり【ひと夏のあやまちは人生最大の過ち!母娘共々お世話になります。】の連載にお付きあいいただきましてありがとうございました。

この後の続き?

ん―――――。さてどうなんでしょうか。作者も分かりません。


もしよろしければコメントや♡、お★様よろしくお願いいたします。


お付き合いいただきましてありがとうございます。  作者。

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ひと夏のあやまちは人生最大の過ち!母娘共々お世話になります。 さかき原枝都は(さかきはらえつは) @etukonyan

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