第二の町
結騎 了
#365日ショートショート 190
いつまでこのままなのだろう。いや、いったいいつからだったか。体の自由を奪われ、私は立ったままここに縛り付けられている。
不幸中の幸い…… いや、残念なことに、意識がはっきりしている。窓の外の夕日が沈むのも、夜の星が綺麗なことも、明け方の鳥のさえずりも、日中のうだるような暑さも、問題なく認識できている。しかし、手先が動かせない。口も、決まった言葉しか発することができない。誰か助けてくれ。いっそ私の命を絶ってくれ。そんな悲鳴さえ上げることが許されない。彫刻のようにここに立ち尽くしたまま、一生を終えるのだろうか。嫌だ。絶対に嫌だ。助けて。助けて。助けて。助けて。
ドアが開いた。室内を見渡しながら青年が入ってくる。頼む、この異変に気づいてくれ。どんなお礼だってする。だから頼む。どうか助けてくれ。
青年は私の前に立ち、声にならない声を発した。それはなにかの掛け声か、合図のようなものか。途端、私の口が開き始める。嫌だ。もう言いたくない。叫びたいのは違う言葉だ。嫌だ。やめろ。もうやめてくれ。
「やあ、旅のお方。ボンペイムの町へようこそ。名物のボンペイまんじゅうは食べたかね」
何万回と、これを旅人に伝えただろう。聞き飽きた自分の声に嫌気が差す。頼む青年。私は動けないんだ。他のことが喋れないんだ。助けてくれ。もうお決まりの台詞は言いたくない。嫌だ。嫌なんだ。
青年はまたもや小さな声を発した。こちらになにかを促しているようだ。
「やあ、旅のお方。ボンペイムの町へようこそ。名物のボンペイまんじゅうは食べたかね」
私の絶望を知らずか、青年は棚の上の壺を勝手に割り、程なくして去っていった。青年がドアを閉めた直後、魔法で巻き戻されたかのように壺が修復された。くそったれめ。
第二の町 結騎 了 @slinky_dog_s11
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