兄が水路で拾ってきた〝人魚〟にまつわる、幼い頃の思い出話。
じっとりと重く湿った質感が魅力のお話です。
ジャンルは「恋愛」であり、その通り色恋にまつわる物語ではあるものの、なんだかホラーのようなゾクゾクする手触りが本当にすごい。
作中に登場する『女』の、その妖しい美しさ。それが幼い主人公の主観を通じて、文字越しにビリビリ伝わってくるのがもう本当に最高でした。
このなんとも言い難い静かで湿った迫力……!
個人的にとても魅力を感じたのは、本作があくまで主人公個人の主観というか、彼自身の語りによって成り立っているところ。
事実レベルではおそらく嘘はなく、いわゆる「信用できない語り手」とはまた違うと思うのですけれど、でもその上でなお強固に提示される〝人魚〟の解釈。
いろいろと想像の余地があるというか、おそらくは植え付けられた何か執着のなせる技だとは思うのですけれど、そのうえでなお「あるいはもしかして」と思わされてしまうところが本当に大好き。
いや「思わされる」というか、引っ張られる、引き摺り込まれる感じ。すごい……。
面白かったです。語りの妙味が好みにズバンズバン刺さる作品でした。