15 御前試合の行方

 俺とエクスがリースさんと合流すると、シャワティが俺達に向かって呟く。


「あらら、うちのリーダーったら油断しちゃって……」

「……よくもお兄様を集中狙いしてくれましたね。覚悟してください」


 隣のエクスから並々ならぬ恐ろしいオーラがあふれ出している。

 ……怖い。


「も、もうアバランスは場外で戦えません! あとは貴方達二人だけです。降参してください」


 俺は怒るエクスの隣で二人に問いかける。


「残念だけど、それは出来ないわ。……この勝負に勝って私達の願いを叶えて頂くもの」

「……そうだ。お前達ごときに我たちは負けん」


 どうやら二人の戦意はまだ失っていないようだ。


「ふん、余裕かましているのも今の内よ! いくわよマイオス!」


 ――バッ!

 リースの掛け声で相手は一斉に距離を取る。


「消えなさい――我は汝と契約を結ぶものなり、雷を司る神よ――」


 シャワティが詠唱を始める中――


 ――バシッ!

 物凄い速度でゲボルドは先ほど投擲した大剣の方へ瞬時に移動し大剣を掴む。

 相手は瞬く間に体制と整えて攻撃準備に入る中、俺も二人に指示をだす。


「ゲボルドは俺とリースさんで、シャワティはエクスにお願いするよ」

「わかりましたお兄様。あの赤髪、少し痛めつけてきます」

「えぇ、マイオス! あのバカ力男をけちょんけちょんにするわよ!」

「うん!」


 俺達も対象に向かって駆け出した。

 すると――


「――汝の裁きを今ここに仰ぐ――”ライトニングボルド”」


 駆け出したと共に、シャワティの詠唱が終わり、突きつけてきた杖の先頭から極大の雷撃をエクスに向かって放ってきた。


「エクス! 危ないっ!」


 だが、エクスは勢いを止めることなく、迫ってくる雷に全く動じていない。


「本来なら無効化させておくものですが――」


 エクスは迫ってくる雷撃を先ほどと同じく異空間に取り込むと”同時にもう一つの異空間”をすぐ傍に作り出す。


「――あなたが放った雷撃でも食らっておきなさい」


 もう一つの異空間から取り込んだ雷撃を勢いよくシャワティに向かって放たれた。


「う、嘘でしょ――」


 シャワティは一瞬何が起きたか理解できないと言った様子で、自身に先ほど放った雷撃が迫ってくる。

 避けようにも間に合わず、自身の放った特大魔法の雷撃が直撃してしまう。


「キャアアアアアァァァ!!」


 バチバチバチバチバチバチバチィィィィッ!!!!

 凄まじい雷撃音が辺りに鳴り響き、シャワティは激しい雷撃により断末魔に近い悲鳴を上げた。


「やば……」


 俺は横目で酷い惨状を目の当たりにしながら大剣を持って俺達は迫ってくるゲボルドに視線を移す。


「うおぉりゃぁぁぁ!!」


 ゲボルドがものすごい形相で大剣を振り下ろしてくる。


「マイオス! 私が受けるわ。その隙にあいつの武器を壊しなさい!」

「あぁ!」


 ――ガキィィィィインッ!!

 大きく振り下ろされた大剣はリースさんが受け止める。


 ブゥンッ!

 二人の剣がぶつかり合った際、辺りに衝撃波が放たれる。


「うぐぅっ! あ、あんた本当にバカ力ね!」

「うぬ……我の一撃を止めるとは……お前のどこにそんな力があるというのだ」


 俺もさっき改めてエクスの付与効果を見たが、神速と剛力の付与効果により装備者の身体能力を最大限に底上げする効果がある。

 俺も稽古で嫌ってほど味わったぐらいだし、ゲボルドも相当驚いているんだろう。


(……って考えている暇はないか)


 俺も力の出し惜しみをしている暇はなく、眼鏡を外してゲボルドの装備する大剣の破点を見つけ出す。


「見えた――”破点”」

≪さっき俺を吹き飛ばしたお返しだ!≫


 ゲイボルグの石突で勢いよく大剣の破点を突きつける。


 ――パリィィィンッ!

 大剣はすぐに亀裂が入り、瞬時に四散する。


「なんだとっ!?」


 瞬時に大剣が破壊された事で、リースの剣を受け止めるモノがなくなり――


「食らいなさい!!」


 ――ズシュゥゥッ!

 リースの剣はゲボルドの体は勢いよく斬りつけられた。


「グアアアァァァァッ!」


 ゲボルドの体はリースの聖剣によって斬りつけられ、鮮血が噴き出す。


 ――ガクッ!

 片膝を地面に着けるゲボルド。

 まだ倒れないようだ。


「お、おのれ、我の武器を壊すとは……許せん!」


 すぐに立ち上がったゲボルドは俺に向かって殴りつけてくる。


「まだ動けるみたいだね。……なら動けないようにするまで――」


 俺はすぐにゲボルドの足に突きを繰り出す。


 ――ズシュッ!

 片足に突き刺さり、その場で倒れるゲボルド。


「ふぅ……おわった」

「ふふ、さすがに私達二人を相手にはできなかったみたいね。なんか呆気ないわ」

「そうだね」


 ゲボルドがその場で倒れて動かなくなった事を確認した後、エクスがこちらに歩いて来ていた。

 背後にはボコボコにされて失神しているシャワティが確認できた。


「おわりました。お兄様!」

「……さすが、一人であのシャワティを倒すなんてね」


 こうして、俺達三人は無事に二人を倒す事ができた。

 その一連の流れを見ていた司会が声を上げる。


「勝負あり! 御前試合決勝戦勝者は、神聖騎士だ――」


 ――ズシュゥゥッ!

 司会の人が勝敗を言う刹那、背後からアバランスの腕が司会の体を貫いた。


「かはっ!」


 司会の人は吐血し、うな垂れる。


「……まだ、終わってないよ」


 ――ズッ!

 アバランスはそう呟くと司会の体から腕を引き抜く。

 司会はその場で倒れ、瞬時に観客席から叫び声が鳴り響く。


「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」

「「「「「キャアァァァァァァァァ!!」」」」」


 一気に会場は混乱状態と化す。


「ふっふふ、ふはははは……マイオス君。ありがとう、君のお陰で素晴らしい力が手に入ったよ」

「な、なんてことを……それに俺のお陰!? 一体どういう事だ!」

≪あんちゃん気を付けな! おそらく、あの剣が壊れた時に呪いで体がっ! ……こいつ、もう人間じゃねぇぞ!≫

(……はっ!?)


 ゲイボルグの言葉を聞いて一瞬信じられなかったが、確かエクスにかかっていた呪いの付与効果は”悪魔化”だった事を思い出す。


「……まさか」


 そんな事を思っている内に建物から複数人の護衛隊が登場し、アバランスを止めようとするが――


「邪魔だ――」


 ――ズバズバズバァッ!

 アバランスは手に真っ黒な剣の様なモノを生成し、迫りくる護衛兵を次々と斬り伏せていく。

 更に、アバランスの放った斬撃は観客の所まで届き、数多くの観客も斬りつけた。


「「「「「キャアアアアアァァァ!!!!」」」」」


 案の定、観客席からは断末魔のような声が鳴り響く。


「な、何よあいつ!? こ、殺しちゃったの!?」


 俺は倒れた司会の人や護衛兵、観客席に視線を向けると微かに動いている事に気付く。


「……いや! まだ間に合う! リースさん、あの人達の傷の手当てを!」

「えっ!? でも私は詠唱が……」


 俯くリースさんにエクスが呟く。


「心配ありません。私の複製を装備しているあなたが聖霊の加護を受けられないはずがありません」

「そ、そうだ! たしかエクスにも無詠唱の付与効果が付いていたはずだ!」


 すると、リースさんは顔を上げパッと明るい表情を浮かべる。


「ほ、本当!? それなら、ちょっと行ってくるわ!!」

「うん! エクスも一緒に負傷者の治療をお願い! 俺はアバランスの相手を――」


 俺が言い終わる前に多くの無抵抗な人を傷つけたアバランスが勢いよく俺に肉薄してくる――


「っ!?」


 ――ガキィィィィインッ!!

 真っ黒な剣の様なモノをゲイボルグで受け止める。


「マイオス!」

「お兄様!」

「――振り返らないで! 俺は大丈夫だから、まずは観客の避難とケガ人の治療を!!」


 何とかアバランスの攻撃を食い止めつつ、俺の指示に頷いた二人は勢いよく駆け出した。


「――アバランス! 無抵抗な人を傷付けるな!!」

「私の邪魔をしたからさ。私ではなく、彼たちに言ってくれないかな」

≪あんちゃん、こいつは既に悪魔化の影響で周囲に毒素を巻き散らかしやがってる!! すぐに離れろ!!≫

「っ!?」


 ――キィンッ!

 ゲイボルグの言葉に驚き、一度黒い剣を弾きアバランスとの距離を取る。


(離れるっていっても、どこに!? 他の観客もまだ大勢いるし、逃げる場所なんてないよ!)

≪……くっ……しょうがねぇか。あんちゃんに死なれてはエクスに顔向けできないからな。俺がこいつを巻き添えにして魔界に連れ込む!≫

(……えっ!?)


 ゲイボルグの決死の覚悟を呟く。

 俺はゲイボルグに視線を向ける。


(なんを言ってるのゲイボルグ!)

≪あいつをこの場から離れさせる一番の手段だ。ほら、俺をあいつに向かって投げつけてくれ!≫

(わ、わかった!)


 俺はアバランスに向かってゲイボルグを投げる。


「そんな攻撃、当たる者か――」


 アバランスは回避をするが、ゲイボルグはアバランスを追従する。


「な、なにっ!?」


 ――グザッ!

 ゲイボルグに刺さったアバランスの背後に渦巻状の異空間が広がり――


「グアァァ!」


 ――ゲイボルグ諸共渦巻状の異空間へと消えて行った。

 その光景を見ていた皆は歓声を上げる。


「「「おおおおぉぉぉ!!」」」


 リースさん達に視線を向けると、負傷者たちを全員回復させていた。

 治療を終えたリースさん達も俺の元へと戻ってくる。


「やったわね、マイオス」

「さすが、お兄様です」

「うん……」


 すると奥からは国王が現れ、声を上げる。


「御前試合の優勝者はお前達、神聖騎士隊だ!」

「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」


 国王の宣言で更に会場が熱狂の渦に飲み込まれる。


「おわったの……か」


 イングラム国王陛下は俺の元まで歩いてくる。


「さ、マイオス。お主は何を望む? 新たな勇者としての資格か? それとも――」

「俺は鍛冶ギルドが作りたいです。必要な物資などを頂けると嬉しいです」

「わかった。用意しよう。では、以上だ。これにて御前試合を終了する」


 こうして波乱の御前試合は幕を閉じ、俺達は鍛冶ギルドの店と物資と人員を用意してもらう事になり、俺は自分の鍛冶ギルドを手に入れたのだった


――完――


■■あとがき■■


「面白かった」

「続きが読みたい!」


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鍛冶ギルドに追放された落ちこぼれ鍛冶師だけど擬人化できる最強武器の聖剣がついて来たので俺の力で武器に無限効果付与させたり直破の魔眼で破壊したりしながら最強の鍛冶師へと成り上がっていきます! 笹塚シノン @saduka0701

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