14 代償の代わりに

 一斉に駆け出した俺達と共に、アバランスとゲボルドも勢いよく駆け出し――


「――炎の精霊よ、我が手に炎を――」


 ――シャワティも背後で詠唱を初めていた。

 二人とも明らかに俺の方に向かって迫って来ていたが、リースさんがゲボルドの前に立ちはだかり聖剣での一撃をぶつける。


 ――ガキィイインッ!

 ゲボルドは表情を変えずに、大きな大剣でリースさんの攻撃を受け止める。


「貴方の相手は私よ! ……よくも深部では私を投げ飛ばしてくれたわね!」

「……役立たずの国王の小娘か。何故、お主が剣を扱えるのだ」

「ふん、私はこっちが本命だからよ!」


 鍔迫り合いをしながら話す二人の背後ではシャワティの詠唱が終わろうとしていた。


「――集い来たれ、灼熱の業火で敵を貫け……”インフェルノブレス”」


 シャワティは俺に向かって炎の特大魔法を打ちこんでくる。


「貴方の相手は私です――」


 だが、すかさず炎の特大魔法の射線にエクスが入り、迫ってくる炎に手をかざす異空間の展開する。

 特大魔法の炎は異空間の中へと姿を消し消滅した。


「……あら、やぁね。私の特大魔法をいとも簡単に無力化してくれちゃって」

「貴方に私のお兄様の邪魔はさせません」

「ふふ、面白いわ。やってみなさいよ」


 シャワティもエクスとの闘いを始める中、俺は眼前に迫ってくるアバランスの漆黒の剣をゲイボルグで受け止める。


(――いくよ! ゲイボルグ!)

≪おぅ! あんちゃん、あの黒い剣の斬撃には絶対に当たるな! 俺が全て受け止めてやる≫


 ――ガキィィィィインッ!

 ゲイボルグの柄で漆黒の剣を受け止める。

 呪い耐性のあるゲイボルグは斬撃を受けられるが、それ以外だと呪いが付与されるヤバい剣だというのが伝わってくる。


 その証にすぐにうるさいぐらいの呪いの声が漆黒の剣から聞こえてくる。


≪コロスコロスコロスコロスコロス……≫


 アバランスの持つ剣からうめき声のような呪いの言葉が聞こえてきて耳がおかしくなりそうだ。


(この剣……ヤバすぎるね)

≪いい具合に狂ってやがる! 昔の俺を思い出すぜ!≫


 それからもアバランスは物凄い斬撃を何度も繰り出してくるが、ゲイボルグが全て受け止める。


 ――キィンキィンッーーガキィィィィィンッ!

 最後の強力な斬撃もゲイボルグで受け止める。


「ぐぅっ!」


俺はその場に踏みとどまりながら、何とか受け止める。


「ほぅ……まさか君がこれほどまでに槍の使い手だったとはね。……誤算だったよ。でも、私からは逃げられないよ? ……この剣がある限り」


 禍々しい漆黒の剣をゲイボルグが受け止める。


「……その剣、どこで入手したんですか!?」

「ふ、君には関係ないさ」


 アバランスはそう言うと、リースさんと対峙していたゲボルドがものすごい勢いで大剣を俺に向かって投げてきた。


「ふん、武器を手放すなんて!」


 リースさんはすぐにゲボルドに斬りつけるが――


 ――パシッ!

 リースさんの剣をゲボルドが手で受け止めアバランスに声を上げる――


「アバランス!! さがれっ!」


 ――ゲボルドの轟音でアバランスは俺から離れ――


「わっ!」


 ――ガコォンッ!

 俺に迫ってきた大剣は持っていたゲイボルグに衝突し、勢いよく弾かれてゲイボルグは遥か後方へと飛んでいった。


≪――なんつーバカ力だ! あんちゃん、逃げろ!! その剣に斬られたら――≫


 無防備になった俺の眼前には漆黒の剣を振り上げるアバランスがいた。


「……それじゃさよなら。マイオス君」

「……っ!?」


 漆黒の剣が振り下ろされる刹那、目の前にエクスが突如現れる。

 それは、ダンジョン深部で見た時の同じく転移してきた時の現れ方だった。


 ――ズバァンッ!

 突如現れたエクスの背中をアバランスは鋭く斬りつける。


「うぅぅっ!」


 エクスは悲痛の表情を浮かべるが、すぐに俺に視線を向ける。


「……お、お兄様がご無事で……よかった……」


 ――バタンッ!

 エクスは俺に向かって微笑みながら意識を失ってうつ伏せで倒れる。

 ゲイボルグは漆黒の剣に斬られたら正気を奪われると言っていたが……エクスが受けた場合はどうなるんだ!


「エクスッ!」

「く、邪魔なやつだ! ……そうだ、お前にはダンジョンの結界破壊の濡れ衣を着せられた恨みがある……この場で壊してやろう――」


倒れるエクスに漆黒の剣を突き刺そうと振り下ろす――


「させるか!!」


 ――が、俺がエクスをすぐに引っ張り位置をずらす。


 ――キィンッ!

 漆黒の剣先は先ほどまでエクスがいた場所に勢いよく打ち付けられる。


「ゲイボルグ!!」

≪待ってな! 今行く!≫


 俺が呼びかけると、遥か後方からゲイボルグが俺の元で戻ってくる。


 ――パシッ!

 俺は戻って来たゲイボルグを受け取り、眼鏡を外す。


(あの剣さえ封じれば――)


 俺はそのまま地面に打ち付けられた漆黒の剣の破点を見つけ出し――


「そこだ――”破点”」


 ――すぐさまゲイボルグの石突で打ち付ける。


 ――パリィィィンッ!

 漆黒の剣は断末魔を上げながら粉々に四散する。


「な、なにっ!?」


 武器が破壊されひるんだアバランスの隙を突き――


「よくもエクスを――吹き飛べ!!」


 ――俺は全身全霊の力を込めてアバランスのみぞおち目掛けてゲイボルグの石突を突きつけた。


「ぐあぁぁぁぁっ!?」


 ――ドゴォォンッ!

 俺の力とゲイボルグの力が重なりあい、アバランスは声を上げながら闘技台の外へ飛ばされ会場の壁に勢いよく激突する。


「「「「うおおぉぉぉぉぉぉ!!」」」」


 観客席から歓声が上がる中、間違えてエクスの破点を付かないように眼鏡を付け直した俺は、すぐにエクスの状態を確認する。

 エクスには神速や剛力、無詠唱といった様々な強化付与効果の中で漆黒の剣に付けられた悪魔化という呪いの付与効果も追加されていた。


(悪魔化……って何だ?)


 ともかくこのままだと、エクスは自我を失ってしまう――


「――やっぱり、エクス……呪いの付与効果が付いてる。すぐに取り除くから――」

「うぅ……お兄様……ダメです。それを使っては」


 俺の言葉を聞いたエクスは微かに目を開けて、自分の事より俺の事を気にかけてくる。

 エクスの頭にそっと手を置きながら微笑む。


「ありがとうエクス。……でも、俺はエクスを救いたいんだ」

「お兄……様……」


 俺はエクスの胸に手を置き、エクスにかかった呪いの付与効果を取り除く。

 光り輝くエクスはすぐに元に戻り、苦痛な表情は元に戻っていた。


「……よし。これでもう大丈夫だ!」

「お兄様……私の為に、ありがとうございます」


 エクスはお礼を言いと、天に向かって祈る。


「……ですが、お兄様に力を使わせてしまった事をお許しください。ロイダース様」


 目を瞑り親父に向かって懺悔をしていた。


「ちょっとっ!? どうでもいいけど、早く戦いに復帰してくれない!!」


 そんなやりとりをしていると、リースさんが俺達に向かって声を荒げてきた。

 急いで視線をリースさんの方に向けると、ゲボルドとシャワティの相手を一人で行っていた。


「あ、ごめん!!」


 どうやらリースさんは俺達を二人から守っていてくれたようだ。


「戦えるか? エクス」

「えぇ、お兄様!」


 俺はエクスと共に戦いに復帰する為にリースさんの元へ駆けだした。

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