エピローグ
数カ月後──。
「【
基地の中を黒い戦闘服を着て闊歩する男をみつけて、その名を呼んだ。彼は現実世界でも髪を真っ赤に染めたので、見つけるのは難しくなかった。
「おいおい、森くん。やり直しだ」
【
「失礼いたしました、赤畠小隊長!」
「よろしい」
それを見ていた【リボンナイト】が、クスクスと笑い出した。現実世界の彼女も、スラリとした長身のカッコよくてカワイイ女性だ。
「やだぁ。軍隊じゃないんだから、やめようよ!」
「紅瀬くん、けじめは大事だぞ?」
【
「そんなのなくても、私たちのリーダーは【
その言葉に、【
「まあ、そうだな。俺のことは好きに呼べ」
「はい」
クスクスと笑いながら返事をすると、大きな掌で頭を撫でられた。俺たちは、【
そうこうしていると、向こうから
「やっと見つけた! もう! なんで作戦室にいないのよ!」
ぷりぷりと肩を怒らせながら駆けてくる【エウリュディケ】の様子に、【
「揃ったな!」
「揃ったなじゃないですよ! ミーティングは作戦室でって連絡したでしょう!」
「いや、あそこ狭いから」
「そういう問題じゃありません。今日から隊長なんですから、しっかりしてください」
【エウリュディケ】に叱られて、【
「……なんで、笑ってるんですか」
「久しぶりだからな、このメンツが揃うのは」
俺たち4人は、それぞれ【オルフェウス】の関連施設で訓練を受けてきた。そして、次の大規模作戦に向けた再編成で、再びチームとして集まることになったのだ。といっても、チームの規模は以前よりももっと大きくなる。
隊長は【
「あ、そうだ。ミーティングの前に」
【エウリュディケ】が、俺に一通の封筒を差し出した。
「宇佐川さんからよ」
「ありがとう」
受け取った封筒は、その場で開かずにポケットにしまった。【オルフェウス】の関連施設の医療部署で働く彼女とは、まめまめしく文通しているのだ。個人的なやりとりなので、ここで見られるのは気恥ずかしい。
「……ラブレター?」
尋ねたのは【リボンナイト】だ。
「違いますよ!」
俺は即座に否定する。なぜなら、ここに【エウリュディケ】がいるから。
「ふーん」
その様子に、【リボンナイト】はにんまりと笑った。その隣で、【
「もう! ふざけてないで、さっさと作戦室に行きますよ。俺も【
「しょうがないな」
「行きましょう」
【エウリュディケ】の先導で作戦室に移動する。この基地は山間の軍施設で、【オルフェウス】が襲撃して手に入れた最重要拠点だ。草と土の匂いが風に乗って通り過ぎていく。
「で、状況は?」
「作戦準備は、ほぼ終わっています。あとは、全ての部隊が到着するのを待つだけです」
「いよいよってことか」
「はい」
「……あそこに、いるんだな」
ふと立ち止まった【
「解除コードを手に入れてから数ヶ月。ようやく、彼らを助ける時が来た」
【
「行くぞ」
「はい!」
今度は【
「森くん」
呼ばれて隣を見ると、【エウリュディケ】──トモミが、俺の方を見ていた。
「この作戦が終わったら、伝えたいことがあるんだけど」
「……俺も」
少しだけ見つめ合ってから、俺達は自然と目を逸した。
(今じゃない)
心の中で、そう言い聞かせる。
「……この作戦、絶対に成功させよう」
「うん」
「俺たちの手で【VWO】をぶっ壊すんだ」
「そして、私たちの手で世界を救う」
「ああ」
ぎゅっと両手を握りしめて、そして開いた。その動作を繰り返す度に、俺は自分の手で殺した人の顔を思い出す。
辛くないと言えば嘘になる。思い出す度に、心臓を引き裂かれるような痛みが俺を襲う。
それでも。
「俺は、戦士だ」
痛みも後悔も悲しみも、何もかも持ったままで前に進む。それが、人間のままで戦士になった、俺の──俺たちの戦い方だ。
オルフェウスの戦士と死の筺の秘密〜VRMMOトップランカーの俺はオトナたちの戦争に巻き込まれたので世界を救う戦士になります〜 鈴木 桜 @Sakurahogehoge
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