6.番外編(2)

ぷはっ!


水から這い上がり足りなくなった酸素を思いっきり吸うと鼻の奥がつーんとし痛くなって思わず顔をしかめた。

「いったぁー!」

こんなとき恵美さんならどんな反応してどんなことをいうのだろうか。

もう二度と戻らない過去にでてくる恵美さんの姿をもやがかかる記憶の中から無理やり引っ張りだした。

あの時の恵美さんのことをどう思っていたのか。

そんなことも覚えていない。


―――・・・


「ずぶ濡れじゃんか。こっち来るなら連絡すりゃいいのに。」

仏頂面の青年。

その表情にはどこか面影があって自然と名前が出てきた。

来夏らいか...」

「いらっしゃい。怜央君。どんどんお食べ。」

来夏は同級生の友達。

と言ってもあの転校から電話したのは一度だけ。

それ以来疎遠。

友達と言っていいのか疑問になるが、予想通り来夏はなんの心配もなく普通に接してくれてる。

ついでにその母親もだ。

前はここに来夏の祖母もいたが昨年他界。

父は中学の時には既に離婚していて行方も来夏自身は知らないのだという。

なので来夏にとってシングルマザーとして育ててくれた母親はかなりの恩がある。

「おばさんも変わってないですね。来夏も身長伸びたくらいだし。」

「俺もちょっとは成長してるつうの。例の恵美さんは?やっぱあれから一度も会ってないの?せっかくの初恋。しかも未練タラt...。」

殺気のオーラぷんぷんで来夏の口を片手で塞ぐ。

「恋してねぇ。勝手に決め付けんな。あの子ども。」

「じゃぁ、怒んな。」

来夏のお家で夕食をいただき今夜泊ることを了承した。

ポチっと電気を消すと来夏の一人部屋は真っ暗になる。

「来夏は何してんの?今は。」

「近くの小さい企業に勤めて働いてる。お金ねぇから大学には行ってない。」

「そうか。」

ベッドに横たわって毛布にくるまると俺を見て言った。

「恵美さんてやつに会いたいのか?」

「分からない。そもそも恵美さんといた時の記憶が一番欠けてる。」

「でもこんなとこ来てんじゃん。会いたいんだろ?」

「・・・。」

その夜はそのまま眠気にそって夢の中に入っていった。


―――・・・


「レオ、レオ!」

「んー?」

日差しが窓から差し込んで目に直接あたり眩しすぎて一度開いた目を閉じた。

恵美さんの声が一瞬したと思ったがそんなはずはないと目の前の来夏を見て思った。

「怜央、今何時だと思ってる?」

俺は時計の針を見て絶句した。

「嘘だろ。ごめん。」

時計の針はもうとっくに昼飯の時間。

どこでそんな朝寝坊をする程の体力使ったのかは全く見当もつかない。

「連れてってくれるんだろ?」

「お?行く気になったのか?」

「ここがトロフィー飾ってあるとこ。」

恵美さんが通っていた高校のトロフィーが大量に飾ってある棚は色あせた症状からピカピカのトロフィーまで沢山置いてあった。

恵美さんが通っていた高校は来夏の母校でもある。

だからこうして高校内を案内してもらっている。

「ほれ、これが例の恵美さんの。」

指差された先は色あせた楯。

やはりどんなに綺麗に飾ってあったとしてもいづれかは色素は薄れるものだ。

でも、俺の心はそれに反し程良く温める。

「お、坂口来てたのか。久しいな。」

「先生お久しぶりです。」

ぺこりとお辞儀をする来夏。

「そちらは?」

「友達です。姉のトロフィー見せに来ました。」

ん?

「そうか。そうか。坂口姉さんは今何してるんだろうな。」

「さぁ。あんな自由にいろんな事してるやつのことなんて知りません。」

「ネエさん?」

困惑状態の俺を気にする事もなく先生と来夏は続ける。

「いきなり退学するとか言いだすから家は大変でしたよ。あの問題児。」

「こらこら、お姉さんもいろいろあったんだから。」

「恵美さんて、来夏のお姉さん?」

目を点にして一人で驚いてると来夏は爆笑した。

盛大に声をあげずっと笑ってる。

何で今までいってくれなかったのか。

そういえば坂口て苗字一緒だと7年ほど時を経てやっと気付いた。

「今更かよ。まじでおもしれー!!!!」

俺は真っ赤になって来夏の首をシメッッッ...


「ギブギブ!怜央悪かったって!」

恵美さんは親友の姉でした。

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私が私になるために‐水面‐ 衣草薫創KunsouKoromogusa @kurukururibon

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