嗤う悪魔は夢に見る

USHIかく

嗤う悪魔を夢が見る

 ――それはとても奇怪で、やけに現実感を孕みながらもこの世界のものではないことが感ぜられる空間だった。

 視界も触覚も普通に機能しているが、別の次元にでも飛ばされたかの如く靄のようなものが身の回りを支配する。

 普通の夢との違いを決定づけるのはその能動性の高さだ。まるで闇の空間に実際に居座っているようで、うまく頭が回らないが自分の意志で体を動かすことができる。しかし、それでも寝ぼけているときのような朦朧さが付き纏い、フィルムがかった自分をカメラを通して見ているようでもあった。

 言葉に表すのも憚られるような、悪夢とは断定できないが心持ちを非常に曇らせるそれはひたすらに頭をつんざく。

 人が死ぬ。血が流れる。炎に包まれ、次の瞬間には深海に溺れる。心を壊され、大切な人に捨てられる。回転する鏡の世界を通り抜ける。

 怪物に肩を触られる。振り向くと、恐ろしさでは形容できぬような黄土色の毛が全身から生えていて、体のパーツのない存在を、気がついたら手で燃やしていた。次の瞬間、手が痛みだすような速さでとてつもない音域の凄まじい音楽をピアノで奏でていた。

「もう助けてくれ……」

 次の瞬間、身の毛もよだつ恐ろしい漆黒の悪魔に微笑まれた。

「……オトモダチ」


 ――目が覚めた。

 なんなんだ、あれは。異様にリアルであらゆる感触が今にも思い出せる。窓から入るのは日の出を過ぎたばかりの淡い明かり。

 眠れる自信はないまま、また横になる。


「――ケイヤクのツヅキは?」

 ――天井には、真っ黒の存在がへばりつき、狂気的な漆黒の瞳はただ、こちらを見つめていた。

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