第9話 最終話 稲神社

言葉使いもまるで違う。本当にあのイネなのか誰も信じられない表情をしている。

「とっとんでもねぇ。オラ達がイネの方様を見捨ててしまった。許して下され」

「いいえ、私は選ばれし者です。その願いを神様(元景)が救って下さいました。村の為に役に立てて良かったと思っています」

「イネの方様のお陰で幸いあれ以来、川の氾濫もなく有難い事です」

「それを聞いて私も嬉しく思っております。皆さんは私が人身御供となった思っているならそれは違います。私は村から選ばれた者として村の役たちたいと思っております。まず今回は皆様一家族につき米一俵を提供致します。その米は間もなく皆様の手元に届く事でしょう」


 すると村人はオーと叫んだ。なんと有難い事か、村人は再びイネの方様にひれ伏した。イネの方様は茂助を見つけると、ゆっくりと近づき。

「父上様、兄上様、お久し振りです、お会いしとう御座いました」

そう言って茂助や兄達の前に立った。深くお辞儀をする。戸惑う家族達の手を取ってイネの方様は心配かけましたと涙した。

「イネの方様、とんでもねぇ。恨んでないか」

「父上、娘に様を付けるのは、お止めて下さい。私は貴方の娘であり家族でありませんか」

「そうかイネ、偉くなっても父と呼んでくれるか嬉しい。生きていてくれるだけで嬉しいのに。立派になって」

「村の皆様方にお殿様、つまり私の夫、朝倉元景より言伝があります。これから先、決して人身御供にとなる犠牲者は出させないし、困った事があったら相談に乗ると言っておられます」

 村人から拍手が沸き起こった。イネの方様は更に続けた。

 

「私は、夫元景さまに生い立ちを聞かれました。私は母が栄養失調で亡くなった事、私だけではなく村人は食べるものもなく沢山の村の方々が亡くなった事を語りました。元景さまは財政を削っても村人の為に食料を与え、餓死者を出さないように努力すると言って下さりました。ですから私の夫、元景を信じて下さい」


 村人から拍手が沸き起こった。それから村の衆に向かって言った。生まれ育った村の為にしたいことがあると。

「私は、この村に神社を建てたいと思います。お殿様からその資金を出して頂き災害のない村を祈願して、それとこの神社を管理する神職を選びその役職は「職階」「階位」「身分」などありますが、これを村の衆から選びます。もちろん素人が出来る訳ではありませんが、最初に神主様が指導し皆様は見習いから始め、後に役職を決めると言うものです」

すると真っ先に当然、村に貢献した茂助を推薦した。オラは出来ないと謙遜した一生懸命励めば出来ると後押しされた。それから数人が選ばれ神社の仕事が出来ることになった。

村人は大喜びした。神社が出来れば多くの人が足を運び村は栄えるだろう。そして最後にイネは生まれ育った家を見たいと、暫く家族団らんのひと時を過ごした。別れ際に五年間も心配を掛けたと、そしてお殿様からお礼しとして三百両も大金を置いて行った。これで家を建てて幸せに暮らして欲しいと、今度来る時、二人の子供も連れて来る約束して帰って行った。後に宇治神社として今では国宝となって居るが、村人はイネの名を取り稲神社として崇めた。


 了

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選ばれし者 西山鷹志 @xacu1822

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