第8話 イネの方様、生まれ故郷へ凱旋

数日後、村の長、宝次郎と占い師が村の衆に重大な話があると集めた。村の人々は嫌な予感がした。また娘を人身御供にする話ではないかと。勿論、茂助達家族も同じ気分だった。イネを失いまた新たな村の娘が犠牲になる、怒りが込みあげる。

「またまた人身御供の話か、イネが犠牲になりあれから氾濫は起きて居ないのに、それともそろそろ人身御供を差し出さないと、氾濫が起きるというのか」

「皆の衆まぁそんな怖い顔をするな。茂助さんの娘が人身御供にされてから一度も氾濫が起きてない、それなのに人身御供にする必要はなかろう。皆の衆、今日は良い話ばかりだ。特に茂助さん喜んで欲しい事がある」

「イネはもう居ない。それなのに何が喜べるんだ」

「驚くな。イネは……いやイネの方様は生きて居る」

「なっ!? なんだってイネが生きて居る。しかもイネの方様って誰の事だ」

話が分からないので占い師が説明した。イネの方様は神のような朝倉元景様に命を拾われ、今ではその奥方に収まり二人の子供まで居ると説明した。誰もが口をアングリと開けて驚いた。川の氾濫を納めたのも朝倉元景と分かり、イネを助け村も救った神様と崇められる事になった。


「それで今からイネの方様一行が間もなく此処に来る。皆の衆に挨拶と、お礼をしたいそうだ。良いか決して失礼のないように相手は朝倉元景様の正妻でイネの方様ですから」

茂助と家族は驚きを通り過ぎていた。人身御供が神様の奥方として帰ってくる。

夢のような話だ。まさに選ばれし者の村の天使だ。やがて何百人もの行列がやって来た。豪華な籠に乗って下に~下に~とやって来た。やがて籠が停まり腰元達が籠を開けた。豪華な衣装を纏いまさに天使が舞い降りたようだ。イネの容姿の変わりようは、まるで天女のようだった。小汚いボロボロの着物を着ていたイネが……驚きと共に村の衆は平伏した。


 イネの方様はゆっくりと籠から出ると村の衆に軽くお辞儀をする。村人は一斉にひれ伏す。イねの方様は村人を見回した。

「驚かせて申し訳ございません。私はあのイネです。村の為と思ったこの命、役に立ったでしょうか、村を放されてはや五年の月日が流れました。あれ以来災害が起きて居ないと聞き安堵しております」


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る