第7話 そして5年 今はイネの方様となった。

あれから五年の月日が流れた。あの宇治川から連れ出されたイネは、最初は怖かったが、この元景は女好きだが、キチンと愛情を持って接した。特にイネを気に入り特別に可愛いがった。十才も違う年だがイネは愛される幸せを感じた。イネは朝倉元景の子を宿していた。授かった子は四歳と二歳の男の子。母となったイネは幸せだった。朝倉元景はイネも息子も溺愛しるようになった。本妻の間には子宝に授かれず亡くなった。今ではイネの方(かた)様と呼ばれる身分である。イネは徹底して英才教育を受けた。正妻には教養が必要だ。読み書きは当然、言葉使い、御茶や書道、華道、などみっちりと教育を受けた。嫡男は朝倉家の後を継ぐ定めにある。いずれイネの子は元景に代わり、この一帯を収めるのだ。イネは朝倉家の高い地位に就いたのは言うまでもない。

 

 だが心配事がある。やはり家族の事だ。今でも宇治川の犠牲となったと思っているだろう。出来るなら生きている事を知らせたい。たが元景は許さなかった。イネが生きていることを知られたら、女をかき集めた事が露呈してしまう。知っているのは元景の他に村の長の宝次郎と占い師だけだ。村の衆も誰も知らない。それなのに生きていましたと帰れる訳がない。

そこでイネの方様は元景に頼んだがウンと言わない。自分の女好きが知られてしまう。いまでこそイネを溺愛するあまり女好きはピタリと止めたが。そこでイネが考えた作戦がある。それには占い師の協力が必要だ。早速、占い師は元景の屋敷に呼ばれた。そこには元影とイネも同席していた。占い師はイネの方様にひれ伏した。今や身分が逆転し立場が違う。イネの方様が言った。

「そちに頼みある。聞いてくれるか」

「ハハッ、イネの方様どのような事でもおっしゃる通りに致します」

その内容とは。確かあの時は人身御供として宇治川に人柱と身を捧げたが、そのとき天が割れ一筋の光がイネの身を包んだと言う。偶然そこに居合わせたのが朝倉元景の一行だった。その時の朝倉元景は天から舞い降りた神様のようだったと。その神様が人身御供とは何事かとイネを救ったという筋書きであった。まったく逆の発想である。娘を騙す自分の女にする目的が人を助ける神様になったのだ。

これには朝倉元景も喜んだ。スケベで女好きが一転、神様扱いとは悪い気がしない。


つづく


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