十九 公開処刑
「いつも思うんです。我々の仕事は、狩りをしているみたいだと・・・」
丸ノ内線四ツ谷駅交番から四ッ谷駅構内へ戻りながら、安藤刑事が呟いた。人混みで良く聞き取れない。
三島は思った。
安藤は痴漢加害者の逮捕を狩りだと思っているのか・・・。
狩りの目的は何だ?一般的には、人が食用や殺戮目的の欲望のため、あるいは害獣駆除のために動物を道具で狩る。疫病の発生など特別な場合を除き、獲物は食用になる。そしては狩られた獲物は、完全に駆除されて二度とこの世に現われない。
だが、人の社会は違う。犯罪を犯しても刑が執行されて、また社会に戻ってくる。その時、過去に持っていた犯罪を犯す意識と心が消えているかと問われれば、消えていない、と私は答えるだろう。実際に刑務所を出所した者たちの再犯率は約50パーセントで高いからだ。
仮に、監察官の茂木進、課長の霧島修男、臼田副総監、若松本部長の四人が、惨殺されずに逮捕されて刑が課せられ、後に刑務所を出所しても、犯罪者の意識は変わらないだろう。変わるどころか、自分たちを逮捕した者たちへの報復を考え、以前にも増して犯罪者の意識が成長していたかも知れない。その理由は、四人とも自己の犯罪を省みず、何度も警察組織を利用して犯罪をくりかえしたからだ。
安藤が言うように、我々が行なっているのは殺戮と捕食をしない害獣駆除だ。ハンターが行なう害獣駆除と違い、我々の獲物である害獣は生きている。刑を課しても社会に戻った時、害を及ぼさぬ保障はない。
今回の惨殺事件で、身元不明者も含めた五人を殺害した被疑者は、身内を殺害された復讐と、警察権力を持つ者の組織犯罪暴露目的で四人を公開処刑したのも同じだ・・・。
そう考えた三島の脳裏に考えが浮んだ。
被疑者は、警察権力を持つ者の組織犯罪暴露目的で、被害者たちを公開処刑したのだ!
被疑者は死刑に賛同している。執行方法は残忍な公開処刑だ・・・。
「安藤は狩りの経験があるのか?」
「ありませんが見た事はあります。
栃木の母の実家の祖父に連れられて猪狩りに行きました。危険だと言われてワンボックスカーの中から、母とともに双眼鏡で見てました。
祖父は仲間とともに、突進してきた猪を一発で仕留めました。
見ていて、興奮しました」
「その時の感想は?」
「猪は何人も人を襲って怪我を負わせてました。害獣なので仕方ないと思いました。
その夜は猪鍋でした。躊躇しましたが、食べました・・・。
うまかったのを覚えてます・・・」
「そうか・・・」
害獣駆除は公開処刑と捕食だ。この安藤も、害獣駆除に賛同する意識と精神を持っている。今回の斬殺事件の被疑者の可能性は否めない・・・。
他に誰が被疑者だろう・・・。
切断処刑 暗殺ミッション② 牧太 十里 @nayutagai
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